債務再編が現実味を帯びてきた
ユーロ圏の財政・金融危機が長引く背景には、主に3つの側面があると考えられます。ひとつは、財政が行き詰まって支援を必要とする国が次々に現れてくること。2つめは、その支援を受けた国が将来的にデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高いこと。そして3つめが、こうした危機的な状況にもかかわらず、ユーロ圏が場当たり的な対応策しか打ち出せていないことです。
昨年のギリシャとアイルランドに続いて、今年(2011年)4月にはポルトガルもEU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)に金融支援を要請しました。ポルトガル政府の進めていた財政緊縮策が議会で否決されたのをきっかけに、同国の10年物国債利回りが10%近くまで上昇し、金利負担の高まりや資金繰りへの不安から支援要請を余儀なくされたかたちです。
市場では財政赤字の水準が高いスペインやイタリアが「次の標的」といわれており、ユーロ圏はEUによる緊急融資額の引き上げなどを通じて、財政危機のさらなる連鎖を食い止めようとしています。国債利回りの動向など現状をみる限り、新たな国で財政危機がすぐに表面化することはないように思われます。ただし、金融支援要請がポルトガルで最後という確証はなく、市場の疑心暗鬼は当分の間、消えそうにありません。
危機の連鎖に対する不安以上に深刻なのが、ここにきて金融支援下にある国の将来的なデフォルトが現実味を帯びてきたことです。EU統計局の発表によると、2010年のギリシャにおける財政赤字のGDP(国内総生産)比は10.5%となり、同国政府の9.4%という見通しを大きく上回りました。
ギリシャ政府は当初、2009年に15.4%だった財政赤字のGDP比を、2010年には8.1%まで削減する計画を示していました。さらに今年の4月には、その数字を2015年に1%前後まで圧縮する追加削減策を発表しています。しかしながら、ギリシャでは2010年に続いて11年も景気後退から経済成長率はマイナスとなる見通しです。市場では同国が計画どおりに財政再建を進めるのは難しく、いずれは国債の利払いや元本を削減する「債務再編」に追い込まれるという見方が強くなっています。
EU統計局の発表を受けて、ギリシャ国債の利回りは10年物が16%台まで、2年物が24%台までそれぞれ上昇しました。特に2年物国債は利回りが異例の高水準にあっても、買い手がつかない状態が続いています。これは市場参加者が将来的な元本カットを警戒し、利回りではなく価格をみて売買するようになったためといわれています。
危機の終息を遅らせる漸進主義
ギリシャなど金融支援下にある国が債務再編に踏み切った場合、どのようなことが起こるのでしょうか。
まず、それらの国債を大量に保有する欧州各国の金融機関が大きな損失を被ることになります。不動産バブルの崩壊によリ、ただでさえ銀行の経営基盤が揺らいでいるスペインなどでは、金融破綻が財政危機の引き金になる恐れがありそうです。それらの国債はECB(欧州中央銀行)も大量購入を続けています。債務再編はECBが不良債権を抱え込むことを意味するわけで、ECBの信認低下や通貨ユーロの下落につながりかねません。
一方では、こうした事態を避けるうえでもユーロ圏は債務再編を認めないだろうという見方もあります。しかし、債務再編に代わる策としては、紙幣の増刷を通じた追加的な金融支援や、他のユーロ圏諸国による財政支援ぐらいしかないのが現実です。支援を行う側も受ける側も、国内世論の反発が厳しいうえに、欧州が最も嫌うインフレへの懸念もあり、このような支援もいつまで続けられるのか疑問が残ります。
本来ならば、ユーロ圏は早めに債務再編を決断して当該国の返済負担を軽減し、財政健全化への確かな道筋をつけるべきだったのかもしれません。金融機関の損失も確定させ、必要ならば大胆に公的資金を投入して自己資本の増強を図り、場合によっては銀行倒産も容認する、いわゆる米国式の抜本的な危機処理法です。
ところが実際には、ユーロ圏は欧州的あるいは日本的な漸進(徐々に進む)主義を選択し、さまざまな国の事情を勘案しながら時間をかけて処理する道をとりました。そのため危機からの出口が見えにくくなり、かえって市場には抜本的な処理の先延ばしを図っているだけではないかという印象を与えてしまっています。
どこかで覚悟を決めてやり方を変えないかぎり、財政・金融危機は今後も何度となく訪れ、そのたびに善後策を模索することの繰り返しになりそうです。