1. いま聞きたいQ&A
Q

欧州経済に、いま何が起こっているのですか?(後編)

モザイク経済ゆえの問題点が噴出

前回に引き続き、欧州経済の現状について考えます。

欧州経済は、いまや欧州単一通貨ユーロを抜きにして語ることはできません。ユーロは今年(2009年)1月に、導入から丸10年の節目を迎えました。加盟国は現在16カ国、ユーロ圏内の人口は3億2,860万人にのぼります。

ユーロ圏経済の大きな特徴のひとつとして、先進国と新興国が入り混じったモザイク経済であることが挙げられます。ユーロ圏にはドイツやフランスなどの先進国と、スロバキアやスロベニアなどの新興国が混在し、なおかつ周辺にはユーロ非加盟の新興国として中東欧諸国が存在しています。

欧州経済は、21世紀型グローバル経済の「縮図」といえるのかもしれません。日米欧をはじめとする先進国とBRICsに代表される新興国とが、なかば連携するかのようにヒト・モノ・カネを効率的に動かし、持続的な市場拡大と経済成長の実現をめざすグローバル経済モデル--。そのミニチュア版としての機能を、今日の欧州経済には見てとることができます。しかしながら金融危機以降、そうしたモザイク模様故の問題点が欧州経済から噴出することになりました。

例えば今年に入って、ユーロ圏各国の10年国債の利回り格差が拡大傾向にあります。2月には最も低いドイツに対して、最も高いギリシャやアイルランドの国債利回りは2.5%から3%近くも高い水準になりました。利回りの上昇は国債価格の下落、すなわち国債が売られたことを意味します。市場(投資家)が国ごとの信用リスクの違いに着目して、リスクがより高い国の国債から投資資金を引き上げにかかったのです。

経済が悪化した国では本来、独自の大幅利下げによって景気を刺激したりする政策が考えられますが、ユーロに加盟しているかぎり、金融政策はECB(欧州中央銀行)に一元化されており、こうした政策を自由にとることはできません。結果としてユーロ圏内でも相対的に経済力が弱い(信用力が低い)国では、資金不足などにより経済の回復が遅れ、それがユーロ圏経済全体の足を引っ張るといった悪循環が懸念されています。

崩壊論と待望論に揺れるユーロ

金融危機が表面化した2008年9月下旬、アイルランド政府は銀行の取り付け騒ぎや資金繰り破綻を防ぐため、2010年まで預金を全額保護すると発表しました。その結果、欧州地域の預金がより安全なアイルランドに向かって流れ始めます。ユーロ圏経済の主導的な立場を自負するドイツは当初、アイルランドの身勝手な行動を強く非難しましたが、数日後には同じく預金の全額保護を決定。フランスもこれに追随し、ユーロ非加盟の英国も預金保護の上限を引き上げるなど、「預金保護ドミノ」ともいえる動きが広がりました。

ユーロ圏では通貨や金融政策は統一されているものの、連邦政府も共通の財政も持たないため、財政政策は各国でバラバラです。すなわち金融政策で自由が効かない分、それ以外の政策で足並みが乱れる可能性は常にあるわけです。このような制度上の問題と経済力・信用力格差、政治思想の違いなどがあいまって、財政状態がとくに悪いイタリアやアイルランドが「脱落候補」と目されるなど、市場ではユーロ崩壊論がくすぶり始めました。

一方で、ユーロの求心力はむしろ強まったという見方もあります。金融危機以降、欧州ではユーロ非加盟のハンガリー、アイスランド、ウクライナなどで通貨の価値が急落し、IMF(国際通貨基金)に支援を要請しました。こうした事態を通じて統一通貨ユーロの威力が再認識され、通貨危機に見舞われた当事国はもちろん、これまでEU(欧州連合)の一員でありながらユーロ加盟を避けてきたデンマークやスウェーデン、英国でもユーロ導入を検討する声が上がっています。

そもそもユーロ誕生の背景には、欧州域内での度重なる戦争への反省があり、長らく停滞が続いた欧州経済の復興をめざすという目標がありました。それは最終的に政治統合をも視野に入れた、巨大国家としての壮大な実験です。その理想に立ち返るならば、欧州経済がいま抱えている問題は、本格的な欧州統合への試金石と考えることもできるでしょう。経済力格差の拡大や各国協調のほころびをどのように修正し、経済悪化の著しい中東欧諸国をいかに支援していくのか。困難の克服に取り組むなかで、ユーロおよび欧州経済の次の10年が見えてくるのだと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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