ギリシャは財政再建に挫折、フランスは成長路線に転換
国家の債務削減を“個人の借金返済”に置き換えて、どうすれば返済を進めることができるのか現実的に考えてみましょう。例えばその方法として、以下の3つが挙げられます。
- (1)生活費の切り詰めや保有資産の処分などを通じて、返済資金を捻出する
- (2)以前より実入りの良い仕事に就いて収入を増やし、返済資金を創出する
- (3)債権者に借金の一部を棒引きにしてもらい、負担を軽くしたうえで返済する
それぞれ国家の債務削減に引き直すと、(1)は財政再建、(2)は成長戦略、(3)はデフォルト(債務不履行)にあたります。
欧州債務危機の震源地であるギリシャでは、これまでEU(欧州連合)などの指導や支援を受けながら、基本的には(1)の財政再建によって債務削減を模索してきました。ところが今年(2012年)5月6日の総選挙で緊縮財政に反対する野党が躍進し、連立与党が過半数割れに追い込まれる事態となりました。
ギリシャでは財政再建に必要な緊縮策が景気悪化をもたらし、企業倒産やリストラによる失業増が国民不満や社会不安につながるという悪循環に陥っています。今回の選挙ではギリシャ国民が厳しさに耐えかねて緊縮策を拒否した、すなわち財政再建に挫折した格好ですが、それにより同国の債務はさらなる拡大が懸念され、またもやユーロ離脱が現実味を帯びてきました。
ドイツとともに緊縮路線を推進してきたフランスの大統領選挙でも、再選を目指したサルコジ氏が敗れ、緊縮の見直しと成長・雇用重視を掲げる社会党のオランド氏が新大統領に就任しました。フランス国民もやはり緊縮一辺倒の財政再建に疲れ、(2)の成長戦略へと転換を求めたことになります。
オランド氏の勝利をきっかけに、欧州各国ではにわかに成長路線への期待と注目が高まっています。ただし、口で言うほど容易でないのは緊縮も成長も同じことです。欧州では数年前まで、「安定成長を遂げるために財政を再建する」という理屈がまかり通っていました。緊縮財政による景気悪化を受けて、今回「財政再建を実現するために成長を重視する」という正反対の理屈が台頭してきたわけですが、こうした堂々巡りに生産性はありません。
財政再建の意義や目的を国民に理解してもらえるか
日本も含めていくつかの先進国では、すでにGDP(国内総生産)の数倍にも上る公的債務を抱えています。先進国の経済成長率が低くなった今日、このような巨大債務を解消するほどの高成長を継続的に実現することは、まず不可能と言っていいでしょう。
専門家の間では「もはや広い意味でのデフォルト(債務不履行)は避けられない」といった声も上がっています。広義のデフォルトとは、ハイパーインフレや資産課税、資本規制などを意味します。さらに厳しい見方として、「債権国による債権放棄など戦後処理に匹敵するような調整が不可欠」という意見もあります。
現実問題として、解決策は(3)のデフォルトしかないのかもしれません。しかし当然のことながら、市場や債権国が求めているのはデフォルトではなく、「財政規律」という名の信用です。ギリシャが挫折に向かっているとはいえ、やはり債務削減の基本は財政再建でしょう。日本をはじめ巨大債務を抱える先進国は、必要な歳出削減や増税などをいち早く実施し、財政規律の回復ぶりを公に示さなければなりません。
先進国の財政再建がなかなか進まない背景のひとつとして、議会制民主主義の弊害を挙げることができます。個人の場合と同じく国民(民意)も政治家も、基本的にはご都合主義で安易な道を選びやすいもの。例えばギリシャの国民が緊縮の厳しさに怒る一方で、債権国であるドイツの国民もギリシャを支援するための税金投入は「けしからん」と言って怒ります。
民主主義の意思決定プロセスでは、そうした民意を受けて債務国でも債権国でも政治家がポピュリズム(大衆迎合主義)に傾きがちです。対策はその場しのぎの小出しとなり、問題解決がかえって遅れるという悪循環につながりやすいのです。
財政再建のポイントは、歳出削減の金額目標や増税率、成長率、インフレ率といった表向きの数字ではなく、その意義や目的にあるのだと思われます。金利の急上昇など、市場の信用を失った場合に被る経済的な悪影響について、政府が国民にさまざまな広報を通じて分かりやすく説明し、財政再建への理解を粘り強く求める努力がもっと必要でしょう。