1. いま聞きたいQ&A
Q

景気が良くなったり、悪くなったりするのは何故ですか?

輸出依存で内需が弱かった景気拡大

景気とは生産や取引、雇用など経済活動全般の動向をあらわすもので、一般に「山」と「谷」を分岐点として表現されます。景気が最も悪い(下降した)時点が景気の谷、景気が最も良い(上昇した)時点が景気の山で、景気は谷から上昇して山に達し、そこから再び下降して谷に戻るという周期を繰り返すことが統計的に知られています。この性質を「景気循環」と言います。

谷から山までの期間は「景気拡大期」、山から谷までの期間は「景気後退期」とそれぞれ呼ばれます。わが国では内閣府が毎月公表する景気動向指数などをもとに、景気の山や谷について随時、判定をおこなっています。今年(2009年)の1月29日には、内閣府の景気動向指数研究会が「2002年2月に始まった景気拡大期は2007年10月に頂点に達し、翌11月から景気後退期に入った」と発表しました。

日本はいま景気後退期の真っただ中にあります。実質GDP(国内総生産)は、2008年10~12月期に-12.1%を記録(前期比年率)。これは第一次オイルショックの影響を受けた1974年1~3月期以来、およそ35年ぶりとなる大きなマイナスです。続く2009年1~3月期も前期と同程度のマイナスが予想されています。

今回の景気拡大と景気後退は、いずれも過去に例のない特徴をもっています。まず、2002年2月から69カ月にわたって続いた景気拡大期は、「いざなぎ景気」(1965年11月~70年7月)の57カ月を上回る戦後最長のものですが、私たち一般個人が景気拡大を実感しにくいという珍しいケースでもありました。その背景には、輸出依存度の高さと、内需の弱さがあります。

この景気拡大期において、実質GDPの伸び率における輸出の寄与度は61%に達しました。これは、いざなぎ景気時の8%や、「バブル景気」(1986年12月~91年2月)時の12%をはるかにしのぐ高さです。期間中に円安傾向が続いたことや、米国および中国をはじめとする新興国で消費が旺盛だったことなどが、著しく輸出(外需)に偏った景気拡大を可能にしました。

一方で、国内の個人消費は期間中に目立った伸びは見られませんでした。輸出の恩恵を大きく受けた製造業などは、コスト増による競争力低下への警戒感が強く、日本企業全体として賃金が伸び悩むとともに、派遣などの非正規雇用も増えたため、景気が良くても所得が上がらない状況が定着。結果として家計には景気拡大の実感が乏しく、個人消費を中心とする内需の拡大にはつながらなかったのです。

需要の増減が景気の良し悪しを左右する

日本が現在、大きな景気後退に見舞われているのは、米国発の金融危機がきっかけですが、その米国において2008年10~12月期の実質GDPは前期比年率-6.3%でした。つまり、経済問題の震源地である米国よりも日本の方が、景気の落ち込み幅が大きいことになります。その理由としては、需要と生産とのあいだに生じるタイムラグなどが考えられるようです。

例えば需要が減少した場合、それに合わせて企業は生産量を減らすなどの対応をおこないますが、こうした生産調整は実際の需要減少よりもタイミングが遅れ気味となります。そのため過剰な在庫がたまることとなり、この在庫を調整するためには一時的にでも、需要の落ち込み以上の度合いで生産を減らす必要に迫られます。今回は大きな視点で見ると、需要の減少が米国で起こり、生産および在庫の調整が日本で起こったため、景気減速の程度が米国以上に日本で大きくなってしまったわけです。

今回の景気拡大と景気後退を見てもわかるように、景気循環のカギを握るのは結局のところ、需要の増減であると考えられます。景気の回復に向けては需要の増加や安定が不可欠なわけですが、ただ単純に需要が増えればいいのかと言えば、どうもそうではなさそうです。内需の代わりに外需に頼った景気拡大は、うがった見方をするならば、「売る先を変えただけ」のものだったかもしれません。これでは短期的な需要の補填効果は得られても、長期安定的な需要創出にはつながりにくいのではないでしょうか。

景気循環が避けられないものだとしても、景気の「ぶれ」が経済や社会に及ぼす影響を最小限に抑える手立てはあるはずです。たとえば、日本で内需が伸びないのは何故なのか--。革新的かつ普遍的なモノやサービスの不足、内需拡大を阻害する旧来型の産業構造や社会規制のあり方など、さまざまな問題点について、いまこそ真剣に考えるべきではないかと思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

バックナンバー2009年へ戻る

目次へ戻る