2005年4月からペイオフの対象が変わることをご存じですか?
銀行が破たんした場合、これまでは原則として定期預金などについてのみ、元本1000万円とその利息分が払い戻し対象となっていました。それが2005年4月からは、普通預金も元本が1000万円とその利息分を超える部分は払い戻してもらえなくなるのです。
11月末に経営破たんした足利銀行の場合は国有化されたために預金は全額保護されましたが、今後、経営破たんする金融機関が同じように国有化されるとは限りません。ペイオフの全面解禁とともに、預金者は銀行の経営状態についてこれまで以上に神経質にならざるを得ません。
では、銀行の経営が健全かどうかを知るには何を見ればいいのでしょう。
銀行の安全性を計る指標として、最も一般的に利用されているのが自己資本比率です。貸出残高や保有している株式、債券などの総資産を分母に、資本金や引当金などの内部資金を分子として算出したもので、日米欧主要国の中央銀行や銀行監督機関で構成する国際決済銀行(BIS)の決めたルールでは、国際業務を展開する銀行は8%、国内業務だけに特化する銀行は4%を維持することが求められています。自己資本比率がこの水準を下回ると、金融庁から早期是正措置が発動され、一部業務の停止など命じられます。
実際に大手銀行の自己資本比率はどの程度なのかを見てみましょう。2003年9月中間決算で公表した数字によると、最も高いのが三菱東京フィナンシャル・グループの12.4%で、以下、UFJホールディングス11.4%、三井住友フィナンシャルグループ10.9%、みずほフィナンシャルグループ10.6%、そして国内業務に特化しているりそなホールディングスが6.3%となっており、いずれも基準を大きく上回っています。
注意しなければならないのは、自己資本比率がある時点で基準を上回っているからといって、その金融機関の経営が絶対に健全だとは言えないということです。足利銀行の場合、今年3月末の時点で同行の自己資本比率は4%を上回っていましたが、その後、金融庁の検査と監査法人の会計監査を経て、9月末時点では債務超過(自己資本比率はマイナス)であるという認定を受けました。
わずか半年で「健全行」が一転して債務超過となってしまった理由は「繰り延べ税金資産」の取り扱いです。
これは税法で認められた限度額を超えて不良債権などを処理した場合、納めすぎた税金がいずれ返ってくると想定してその分を資産に計上することです。金融機関の自己資本比率算出では、繰り延べ税金資産を自己資本に繰り入れることが認められており、足利銀行では自己資本のうち実に約9割を繰り延べ税金資産が占めていました。しかし、繰り延べ税金資産は今後5年以内に見込まれる課税所得の範囲内でしか計上が認められないことになっており、金融庁や監査法人は「足利銀行は今後5年間で想定していたような利益を稼ぐことはできない」と判断し、自己資本に組み入れていた繰り延べ税金資産の計上を認めないことにしたのです。
銀行の自己資本比率では、このほか保有している株式含み益の一部なども自己資本と認めており、比率は株式相場の上げ下げにも大きな影響を受けます。このように自己資本比率は金融庁や監査法人の判断や、算出するタイミングなどによって大きく変動するため、この数字だけを見て健全かどうかを見分けることはできません。自己資本比率を見るときにはその内容まで詳しく分析しなければなりませんし、それ以外にも資産に占める不良債権の比率や収益力、格付け会社が公表している格付けなど、様々なデータで総合的に判断することが必要です。