金融機関から不良資産を切り離すのが目的
「バッドバンク(bad bank)」とは、国(政府)が金融機関の不良債権や不良資産を買い取り、管理・処理するために設立する受け皿的な専門銀行のことです。その最大の目的は、経営が悪化した金融機関から、不良債権や不良資産を切り離す点にあります。
以前にこのコラムでも紹介したように、国が金融機関を支援する手段としては、公的資金による資本注入(直接注入方式)が一般的です。しかし、この方式では金融機関に不良債権や不良資産が残るため、それらの価値が将来さらに下がって金融機関に新たな損失が発生する恐れがあります。その場合、国は継続的に資本注入などの策を講じなければならず、いわば支援にきりがありません。
バッドバンクを通じて国が金融機関から不良資産などを買い取る場合も、基本的には公的資金、すなわち国民の税金が使われます。国民負担を小さく抑えるために、国はできるだけ低い価格で不良資産などを買い取り、その後は市場の回復などを待って、できるだけ高い価格で売却(公的資金の回収)することをめざします。
必然的に、国の買い取り価格は本来の資産価値よりも低くなるので、金融機関がその価格で売れば、やはりその時点で金融機関には損失が発生することになります。それでも放っておけばどこまで拡大するか分からない金融機関の損失を、たとえ一部分でも確定することが可能なわけで、金融安定化へ向けては大きな意味があると考えられます。
米国では民間資金の呼び込みも狙う
今回の金融危機にあたっては、米国や英国などがバッドバンクの導入を検討することになりました。なかでも米国政府が2009年3月に発表したバッドバンクの枠組みは、民間の投資家(出資者)にも参加を促すというユニークなものです。
米国の構想では、不良債権や不良資産の買い取り案件ごとに民間投資家のあいだで価格競争入札をおこない、より高い価格を提示した投資家を共同出資者として採用します。その投資家と米国政府が共同で基金(ファンド)を設立し、買い取り資金を拠出する仕組みです。その際、FDIC(米連邦預金保険公社)の保証付き融資や財務省からの融資などを活用して、買い取り金額の規模を大きく膨らませることが可能になっており、投資家は実際の出資額に対して最大で4~14倍に相当する不良債権や不良資産を買い取ることができます。
バッドバンクにおいて米国政府がまかなう公的資金は750億~1,000億ドル。それに民間の投資分を合わせて5,000億~1兆ドルの不良債権と不良資産を金融機関から買い取る計画になっています。ただし、米国の金融機関はすでに5,000億ドル超の不良債権を抱えていると見られており、不良資産化した証券化商品なども加えると、買い取り対象となる資産の総額は10兆ドル前後にのぼるとも言われます。仮に上限の1兆ドルまで買い取りが進んだとしても、金融安定化へ向けての効果は限定的かもしれません。
金融機関側がどれだけ買い取りに応じるかどうか、という問題も残ります。買い手すなわち民間投資家に有利な条件をつけたことで、買い取り価格が必要以上に低くなる懸念は薄れたものの、金融機関にとっては損失を自らの手で確定することになるわけで、不良債権や不良資産の売却には消極的です。
米国政府は証券化商品などに対する時価会計の適用を部分的に緩和したため、金融機関のなかには2009年1~3月期決算において不良資産の時価評価を一部見送り、評価損の計上を回避するケースも出てきました。この手法を用いて、金融機関側が「不良資産をしばらく抱えておく」という選択に走らないとも限りません。
金融機関が買い取りに応じたとしても、巨額の損失計上にともなって金融機関が自己資本不足に陥る可能性があり、場合によっては追加の公的資金注入が必要となることも予想されます。金融機関の支援に対して国民や議会の反発が強まるなか、米国政府はまたも難しい対応を迫られることになるでしょう。いずれにしても、金融安定化にはなお多くのお金と時間がかかることは間違いありません。