1. いま聞きたいQ&A
Q

「経常赤字」は日本経済にとって、どこまで問題なのでしょうか?(後編)

民間貯蓄が財政赤字を補てんする態勢が限界に

経常収支について考える場合、『経常収支=貯蓄超過額+財政収支』という式で表す方法もあります。これは「貯蓄・投資バランス論」と呼ばれるもので、貯蓄超過額は家計と企業(民間)における「総貯蓄-総投資」を、財政収支は「税収-政府支出」をそれぞれ指します。言い換えるならば、経常収支とは「家計の黒字(赤字)+企業の黒字(赤字)+政府の黒字(赤字)」を意味することになるわけです。

日本の過去20年間を見ると、家計の貯蓄超過額は少子高齢化などの影響からはっきりと縮小傾向を示しています。企業の貯蓄超過額は拡大しているものの、財政収支は大幅な赤字となっており、国内全体では経常黒字幅が縮小しつつあるのが現状です。

先ごろ発表された2013年度の経常収支は7,899億円の黒字でしたが、これは統計として比較できる85年度以降で最小の数字であり、黒字幅が1兆円を割り込むのも初めてです。現時点では民間の貯蓄超過が財政赤字を上回り、なんとか経常黒字を確保している状態ですが、このまま家計の貯蓄減少や財政赤字が続くと、遅くとも20年~30年代には通年や年度ベースでも経常赤字に陥るとみる専門家は少なくありません。

ひとつ注意しておきたいのは、ここで言う経常赤字が国家としての経済的な困窮や破綻を意味するわけではないことです。あくまでも経常黒字という形の“新たな蓄え”が生まれないだけであり、“過去の蓄え”を活用して経済を運営する道は残されています

私たち国民が高齢になれば貯蓄を取り崩して生活費に充てるように、国も経済の成熟化が進んだら過去の蓄えを取り崩して対処するのは当たり前と主張する専門家もいます。例えば英国は84年から、米国は92年から経常赤字が続く「債権取り崩し国」であり、オーストラリアやカナダでも経常赤字が半ば常態化しています。それでもこれらの国々では日本より経済成長率の高い期間が長くなっており、経常赤字が必ずしも経済の低迷に結びつくわけではないことが分かります。

海外マネーを国内に継続的に呼び込めるか

日本が近い将来、経常赤字に陥ることが濃厚だとすると、私たちが差し当たって考慮すべきポイントは以下の3つではないでしょうか。

  • ● 経常赤字によって日本経済にどのような悪影響がもたらされるのか
  • ● その影響が深刻な場合、対策を急ぐべきではないのか
  • ● 英国や米国のような債権取り崩し国としての経済運営が、日本にも可能なのか

日本で年ベースの経常赤字が定着した場合、それ自体というよりはむしろ経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」を抱えることが大きな問題であるといわれています。双子の赤字では従来のように日本国債を家計と企業の貯蓄で買い支えることができず、海外からより多くの資金を受け入れる必要が出てきます。こうした見方が市場関係者の間に広がると、長期金利は急上昇しやすくなり、政府債務の金利負担が増加して財政状態はいっそう悪くなる恐れがあります。

できれば双子の赤字は避けたいところですが、遅々として進まない財政再建の現状を見るにつけ、財政赤字の劇的な改善は望み薄です。事実上、経常赤字に陥るのを避ける、あるいはその時期を先送りするという格好で時間を稼ぐしか方法はありません。

具体的な対策としては、例えばLNG(液化天然ガス)などエネルギーの調達源を分散して輸入額の膨張を抑える、海外への直接投資の割合を高めて所得収支を増やす、非製造業の生産性向上や外国人旅行者の増加を実現してサービス収支の改善を図る――といった方法が考えられます。LNGに関しては、将来的に米国からのシェールガス輸入やロシアからの調達拡大などが期待できることから、輸入額が今後も恒常的に増えることは考えにくいという楽観的な見方もあります。

さらに重要なのは、現在交渉中のTPP(環太平洋経済連携協定)などを通じて、日本経済の成長期待を地道に高めていくことでしょう。逆説的な言い方になりますが、投資対象としての日本の魅力が増し、海外マネーを国内に継続的に呼び込むことができれば、たとえ経常赤字が避けられずに双子の赤字や債権取り崩し国になったとしても、国債消化も含めた中長期的な経済運営の道が開けてくるからです。

残念ながら日本は米国の基軸通貨や英国の金融センターのような、世界中から投資マネーを引きつける経済的ステイタスを持ち合わせていません。世界に向けてどのような形で成長期待や投資魅力をアピールしていくかということは、経済成熟国・日本が取り組むべき喫緊の課題のひとつといえそうです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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