1. いま聞きたいQ&A
Q

リーマン・ショック後も有効な投資の手法や考え方とは、どのようなものですか?

投資成果を自分でコントロールできるという幻想

今年(2013年)の9月15日で、リーマン・ショックから丸5年が経過しました。この5年間で私たち日本の個人投資家は、メンタル面において重大な考え方を突きつけられたように感じます。その考え方とは、「投資成果を自分でコントロールできるというのは幻想である」というものです。

リーマン・ショック以降、個人投資家の間では、株式など相場の急落や乱高下に対して過剰ともいえる恐怖感が広がりました。相場の動きに少しでも不安や疑問を感じたら、いち早く「利益確定」や「損切り」「撤退」に踏み切ることが不可欠と考える人も増えてきたようです

利益確定にしても損切りにしても、一時的に投資を中断した投資家は、その後どこかで再び新たな投資を始めることになるはずです。これはその投資家が自らの投資という行為に手を加え、売買のタイミングや投資期間をつくり変えることにほかなりません。たとえ無意識であっても結局のところ、投資家は自分で投資成果をコントロールしようとしているわけです。

リーマン・ショック後の金融市場では、投資家がリスクを積極的に取るリスクオンの局面と、リスクの回避に走るリスクオフの局面が顕著に現れるようになりました。投資家の心理が強気に傾くと欧米株などの「リスクオン資産」が、弱気に傾くと米ドルや円などの「リスクオフ資産」がそれぞれ一斉に買われます。結果として投資は短期志向となり、投資家はスイッチを切り替えるようにリスクオンとオフの間を右往左往することになったのです。

リスクオン・オフは主に機関投資家の話ですが、日本の個人投資家も、それに似てきたような気がします。もちろん、「短期志向が悪いのか」「長期投資にそれほどの効果があるのか」といった反論もあることでしょう時と場合によっては利益確定や損切りが重要なことも確かです。しかし、相場観に基づく投資がその道のプロにも難しいという事実は、忘れるべきではありません

投資家の手が加わることを徹底して拒否する意味

投資家の短期志向が強まった背景には、分散投資が従来ほどには効かなくなってきたという事情もあるかもしれません。どのような相場環境にも対応できる、いわゆる全天候型の資産運用を目指すにあたっては、国内外の株式や債券に分散投資する「国際分散投資」が有効とされています。ところがリーマン・ショック後は、前述したリスクオン・オフの影響などから世界のさまざまな金融資産が連動性を強めたため、もはや国際分散投資も効力を失ったのではないかという論調が広がりました。

いま改めて国際分散投資の効力を検証してみると、確かに一時より分散効果は薄まったものの、無くなったわけではないことが分かります。ただし、ひとつ注意しなければならないのは、国際分散投資が効力を発揮するためには長期投資が前提になるということです

投資助言会社のイボットソン・アソシエイツ・ジャパンの試算によると、「日本」「海外先進国」「新興国」、それぞれの「株式」と「債券」という6種類の金融資産に、リーマン・ショック直前の2008年8月末に同じ金額ずつ均等投資した場合、その投資成果は以下のようになります。(※配当や利息などは再投資し、税金・費用は考慮せず)

  • ●投資成果を年次で見ると、4年後の2012年8月末まではずっとマイナス
  • ●5年後の2013年8月末の時点ではプラス14%
  • ●投資開始時期を2003年8月とした場合、投資成果はプラス78%

5年間の投資成果を個別資産と比較すると、6資産分散は新興国債券、先進国株式に注ぐ3番目の成績であり、期間中の最大下落率はそれぞれの株式に集中投資した場合よりも低くなっています。

国際分散投資では原則として国内外の複数の金融資産に均等投資を行うため、一般に投資成果の9割を決めるといわれる資産構成比率に関して、投資家の意思が反映されません。さらに長期投資が加わることで、投資家の相場観も排除されます。このように投資家の手が加わることを徹底して拒否する投資手法が、結果として比較的安定した値動きと、そこそこのリターンをもたらすことの意味を、私たちはいま一度よく考える必要があるのではないでしょうか。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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