今回は、「少子高齢化についての日本人の全般的な考え方はそもそも後ろ向き過ぎるのではないか」という話を書く。この問題に対する日本での代表的な見方といえば“悲観論”である。しかしその悲観論を横目に、人口1億人以上の大国として最初に少子高齢化が進みつつある日本で、ビジネスにおけるグローバルな将来ビジョンをしたたかに描いている海外の有力企業がある。今、支配的な“悲観論”に惑わされることなく、「(少子高齢化を)どのような視点で捉えるのが正しいのか」を考える題材を提示したいと思う。
GEが進めていること
「GE」という会社を知っているだろうか?正式名称をゼネラル・エレクトリックという。当初からダウ工業株30種平均の構成銘柄になっている、米国を代表する企業だ。また、東京電力・福島第一原発事故後にGEの名前が頻繁に登場したのは同原発の設計など基幹部分を担った会社だからだ。
しかしGEは1970年代に起きたスリーマイルアイランドの原発事故以降、原子炉関連事業を大幅縮小している。「複合企業」という呼び名にふさわしく重工業や航空宇宙など多くの事業を持つが、勢いがあるのは医療機器製造事業である。例えばコンピューター断層撮影装置(CT)などだ。
そのGEの子会社であるGEヘルスケアが今年(2013年)の春、興味深い発表会を東京で開催した。その内容は、「日本をグローバルな中核的研究開発拠点(center of excellence)にする」というものだった。米国の企業が日本を研究開発の中核にするというやや風変わりな発表だ。「日本企業が研究開発部門を日本に残すのはまだ分かるが、でもなぜ米国企業が・・・?」と普通の人は考える。そこが“逆転の発想”だ。
GEヘルスケアは日本で何をするのか。同社はかねて「日本のニーズに対応した製品を開発し、それを世界に展開していく」という方針を持つ。それを「IJFG(In Japan for Global)」と呼んでいるが、この発表会でその方針を今後ますます強化していくと内外に公表したのだ。最新事例の一つとして紹介されたのが、画面レイアウトの学習機能を搭載するWebベースの医療用画像閲覧ビューワ「Centricity Universal Viewer」の日本での開発である。米国ではなく、人口が減り始めたこの日本でだ。なぜだろうか。
GEの論理
2年ほど前になるが、筆者は東京郊外の日野市にある同社の開発拠点、工場を取材した。科学番組の取材だったが、そこで日本企業とは全く違う同社の発想に驚いた。GEの担当者は、「世界でも一番、高齢化が進んでいる日本で様々な医療機器を開発すれば、これから高齢化を迎える韓国・中国は言うに及ばず、世界中で高齢者向け医療ニーズの高まりに対応できます」と言ったのだ。
この瞬間、筆者は頭を叩かれたようなショックを受けた。発想が日本人、日本企業と真逆だったからだ。日本では、少子高齢化は日本の弱点のように思われている。「もう日本に将来はない」といった話がまん延している。経済も駄目になるし、生活水準も低下するだろう・・・といった発想だ。
しかしGEは「少子高齢化は世界の趨勢(すうせい)、日本はその先頭を走っているだけ。だとしたら、少子高齢化の日本でどのような医療機器を開発すればよいのかを研究・開発するのは当然」と考えた。実にまっとうな見方だと思う。(日本での)根拠なき悲観論をあざ笑うかのような見事な、しかし考えてみれば当然な発想だ。その時から筆者は「GEの発想には学ぶべき点がある。それは日本企業にも当てはまるはずだ」と考えるようになった。
日本企業の可能性
日本は世界に先んじて高齢化社会を経験している。これは世界にとって大きな実験が日本で始まっているといえる。「人口の高齢化」とは医療の世界にとって何を意味するのか、今までと違うどのような機器を開発すればよいのか。それはCTのような大型機器から、ほかの医療器具にまで当てはまるはずだ。高齢者は若者とは違う行動パターン、体型、体力を持っている。これは調査・企画し、そして製造するに値する。
これは医療に限らない。身の周りの様々な商品、道路などインフラの形状といったあらゆる面にわたる。少子高齢化が進む中で、今までの「若者向け商品」とは違うものをつくる必要があるということだ。食べるものも違ってくるだろうし、旅行のパターンも違うはずだ。その膨大なデータが日本で形成されつつあるのだが、日本企業はそれらのデータを十分に蓄積し、海外展開の中で生かそうとしているだろうか。
発想の違いは大きい。日本人は「少子高齢化」という言葉で思考停止している。それではいけない。少子高齢化で世界の先頭を走るということは、「現場でそれを見られる」「対処法が分かる」という意味で、日本企業にとっては実は大きなメリットだ。逆に言えば、それができている日本の企業には未来がある、ということだ。(続)