リスクの転嫁=回避が本来的な機能
「証券化商品」とは、融資やリース、不動産など将来一定の収益が見込める資産を裏付けとして発行される有価証券のことを言います。その仕組みや機能がどのようなものなのか、具体的にイメージしやすいように、サブプライムローンを例にとって考えてみましょう。
サブプライムローンでは、米国の住宅金融会社や銀行などが住宅購入を希望する顧客に住宅ローンというかたちで資金を貸し出し、その金利を受け取るというのが基本的なお金の流れになっています。ただし、サブプライムローンは信用力の低い顧客を対象にしたローンなので、資金の貸し手から見ると、通常の住宅ローンに比べて「貸し倒れリスク」(返済が焦げ付く可能性)が高いことになります。
このリスクに対応するために、住宅金融会社や銀行などはまず、サブプライムローンの金利を通常よりも高く設定しました。同時に、住宅ローン債権(貸し出したお金を返済してもらう権利)を数百~数千件の単位で束ねて「住宅ローン担保証券」と呼ばれる小口の証券化商品をつくり、それを投資銀行やSPC(証券化のために設立された特別目的会社)などに売りました。言い換えると、住宅金融会社や銀行などはサブプライムローンの顧客から金利収入を得る権利だけを手元に残し、貸し出し元本を回収する権利、すなわち貸し倒れリスクを負う責任は、投資銀行やSPCに売り払ったわけです。
投資銀行やSPCなどは、買い取った住宅ローン担保証券をベースとして、そこに一般の社債や企業向け貸付金、消費者ローン債権、自動車ローン債権などを合成した新たな証券化商品をつくり、それを機関投資家やヘッジファンドなど世界中の投資家に販売しました。このようにして、サブプライムローンにかかわる金融機関は、それぞれ手持ちの住宅ローン債権を他者に転売することにより、サブプライムローン関連の損益をその時点で確定・限定しながら、なおかつ貸し倒れリスクを回避する(他者に移す)ことが可能になったのです。
リスクの所在が分からなくなる怖さ
サブプライムローン関連の証券化商品を購入した機関投資家やヘッジファンドは、間接的にサブプライムローンの貸し倒れリスクを引き受けたことになります。それでも彼らにとって、証券化商品を購入する大きな動機が2つありました。ひとつは、サブプライムローンの金利が高く設定されていたことで、証券化商品の年利回りが米国債などに比べて大きく、資産運用の選択肢として非常に魅力的だったこと。もうひとつは、証券化商品のリスクが意外に低いのではないかという錯覚が生まれたことです。
米国では2003年頃から2006年にかけて住宅価格の上昇が続き、購入住宅を担保にしたローン借り換えや住宅転売が容易だったため、サブプライムローンの返済焦げ付きは低水準で推移していました。そのため、束ねられた数百~数千件の住宅ローン債権の一部が焦げ付いても、一度にすべてが焦げ付く可能性は低いという認識が広がり、格付け会社もサブプライムローン関連の証券化商品に対して高格付けを与えました。
こうした「お墨付き」をもとに、金融機関は証券化商品をリスク回避の手段としてだけでなく、利益をめざす道具としても活用し始め、投資家もそれを積極的に購入するという流れが定着します。しかし言うまでもなく、サブプライムローンの貸し倒れリスクは低いわけでも、消えて無くなったわけでもありません。
加えて前述のように、住宅ローン債権と他の債権との合成が盛んにおこなわれた結果、表面的にはサブプライムローンが混じっていると気づかないような証券化商品が世界中にバラ撒かれてしまいました。リスクが軽視されたことも大きな問題ですが、どこの誰がどの程度のリスクを抱えているのか分からなくなってしまったことは、さらに深刻な問題と言えるでしょう。
証券化商品は、リスク低減や運用効率の向上といった本来的な機能を見るかぎり、経済や金融を活性化させるうえで重要な役割を担っていることは間違いありません。現在はサブプライムローン問題を通じて、証券化商品への信頼が大きく低下していますが、要は「使い方の問題」だと思われます。情報開示や客観的な評価の厳格化を含めて、今後は販売側にも購入側にも冷静かつ節度のある姿勢が求められるところです。