信用取引、先物取引、最近は新聞などでしばしば見かける用語です。最近ではインターネット証券会社を経由して個人投資家の株式売買が盛んになっています。そしてその7割近くが信用取引を利用しているとも指摘されています。
株式市場に関して言えば、いずれも現物取引に対する売買の仕組みのことです。売り買いの対象となる金融商品がまずあって、それに対して枝分かれするように派生してできる市場のため、先物取引は派生商品(デリバティブ)と呼ばれることもあります。まずはその仕組みの概要を見ておきましょう。
信用取引
信用取引とは、たとえば株式を買う場合に、証券会社が投資家に対して、買い付けに必要な資金を融資して行う取引のことです。売りに関しては、投資家に株券を貸し出して取引を行います。
投資家A氏がすでにB証券会社で投資資金1000万円の範囲内で目いっぱい現物株を買っている場合、さらに別の銘柄を買いたくなりました。しかしA氏の手元には、もはや買い付けに必要な資金がありません。このような時に信用取引を利用すれば、すでに買っている1000万円分の株券を担保に入れて、証券会社から資金の融資を受けて新たに株式を購入することができます。
売りの場合も同じです。近々株価が値下がりすると投資家A氏が考えた場合、信用取引を利用すれば、証券会社から株券を借りて市場で売却することができます。手元にない株式を売ることから「空売り(カラウリ)」と呼ばれることもあります。通常の現物取引は、まず先に買っておいて、買い値より高くなった時に売れば利益が出ます(買い値よりも売り値が低ければ損失になります)。カラ売りはそれとは反対に、先に高く売っておいて、安くなった時に後から買い戻します。売り値と買い値の差額が投資家の利益となります(売り値よりも買い戻した値段が高ければ損失が出ます)。
先物取引
先物取引は、厳密には「将来の売買についてあらかじめ現時点で約束する取引」となります。もう少しかみくだいて表現すれば、先物取引とは、たとえば「日経平均」のようなある特定のモノを売買の対象として、買い付けをした時点では買い付け代金を支払わずに、将来の決められた期日まで買い付け代金の支払いが伸ばされている取引です。信用取引のように融資という形はとりません。
ここに「日経平均が3カ月先の時点で1万円なら1000株買いたい」という投資家C氏がいます(ここでは説明のために、日経平均を一般の株式と同じように「~株」と表示します)。1万円×1000株=1000万円です。C氏は3カ月先にならないとその資金が入ってこないため、現時点では買えません。しかし資金が手元に入るまで待っていては、その間に値上がりしてしまうかもしれません。そこでC氏は先物市場を利用して、今の時点で1000株の先物を買います。
この時、C氏は1000万円の買い付け代金の支払いは3カ月先まで伸ばされます。3カ月後の期日が来て、1万円だった日経平均は1万1000円まで値上がりしていました。この時にC氏の支払い額は、当初の約束どおりに(1万円×1000株=1000万円)だけで済みます。資金が手元に入るまで待っていたら1100万円の支払いが必要になるところでした。
C氏は、事前に決めた3カ月の期日が来る前でも、値上がりした時は途中で売却することもできます。買い値と売り値の差額がC氏の利益です(買い値よりも売り値が低ければ損失になります)。なお、信用取引と同じように、先物取引でも売りから先に入ることができます。最初の買い付け(売り付け)の時には担保(証拠金)が必要です。実際の日経平均の先物取引では、1000株を1単位として取引されています。
信用取引と先物取引は、どちらも担保(証拠金)を提供して取引する点でよく似ています。しかし両者は根本的に異なった取引です。
まず信用取引では、投資家は証券会社から資金や株券を借りて取引を行います。しかし先物取引では「借りる、貸す」という行為はありません。資金の決済が将来に先送りされているだけです。
次に信用取引は、現物取引と同じ市場、同じ価格で取引されます。現物市場に「信用取引」という取引の手法が加わっただけです。これに対して先物取引は、現物市場とは別に市場が存在します。現物は現物、先物は先物と市場が分かれて取引されています。先物取引の価格は現物価格とは別のものになります。双方の値段は必ず連動して動いていますが、根本的に別の市場での取引です。