1. いま聞きたいQ&A
Q

NTTについて、政府保有株の放出が言われていますが、株価にはどのような影響があるでしょうか

新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

2005年の株式市場は、年明けから堅調な値動きが続いています。大発会を待ち構えていたかのように、東証1部の出来高は順調に増加傾向を示しています。日経平均は約半年ぶりに1万1500円台に乗せました。まずは幸先よいスタートを切ったと言えるでしょう。

昨年暮れにはインドネシア・スマトラ沖地震が発生し、戦後の国連史でも最悪と言われるほどの大規模な津波の被害が発生しました。しかし経済面では大きな出来事は少なく新年を迎えています。その中で比較的目を引いたニュースとしては、1月6日の日本経済新聞が報じたNTT株の政府保有分の放出に関するものです。2005年の株式市場では折りにふれてNTT株の政府放出が話題になりそうです。

1月6日の新聞記事によれば、政府は保有するNTT株を最大で112万株強、来年度(2005年4月~2006年3月)中に売却する方針を固めたそうです。政府はNTT法によって、NTTの発行済株式数の3分の1(約530万株)を保有し続けることを義務づけられています。そのために今回の売却が実現すれば、1987年以降、20年近くにわたって続いてきた政府保有のNTT株の放出は今回で最後になります。

昭和60年(1985年)4月に、旧電電公社から民営化された日本電信電話株式会社(NTT)が設立されました。昭和62年(1987年)2月にNTTは東証1部に上場しましたが、その前年の昭和61年11月に第1回目の政府保有株の放出(195万株)が実施されました。それ以来、これまでに合計で6回の株式放出が行われました。その時の状況をグラフと表にまとめました。

2枚のグラフは、それぞれNTTと日経平均の月足の動きを示しています。赤い印をつけたところがNTT株の放出が実施された時点です。

この表とグラフから次のことがわかります。まず、過去6回の政府保有株の放出(つまり売出)といっても、実際には1986年~1988年の3年間と、1998年~2000年の3年間とに、売出時期が大きく分けて2つの時期に分かれていることです。(第1回目の売出は、売出を行ったのが1986年11月、東証上場はその3カ月後の1987年2月でした。)

政府(当時の大蔵省)としては、1987年にNTTが上場してから毎年定期的に保有株を放出してゆく計画でした。しかし上場して5カ月目の1987年6月にNTTの株価はピークをつけ、1988年に入ると値下がりが激しくなりました。そのためにその後の放出計画を見合わせざるを得ませんでした。

NTTの株価が回復するのを待っているうちに、90年代に入ってバブル経済が崩壊し、株式市場の下落が本格化しました。そのためその後10年間にわたって追加の保有株放出は凍結されてしまいました。

1998年になって政府は10年ぶりに保有株の放出を再開しました。この時の売出は株数を減らして、株式市況の回復を見ながら慎重に行われました。しかし2000年後半にまたもやITバブルの崩壊に巻き込まれてしまい、3年間実施しただけで再び放出凍結を余儀なくされました。

NTT株の放出は大量の資金をマーケットから吸収します。過去6回の売出実績では、最も金額の多かったもの(第2回)で4兆9700億円、最も少なかったもの(第4回)でも8500億円です。株式市場が元気な時でも、これほどの金額を吸収するにはかなりのエネルギーを必要とします。市場が沈滞ムードにある時ではなおさらです。

現在予想されている次の放出予定株数は、新聞記事によれば112万株強となっています。仮に現時点での株価水準(45万円程度)で売出価格が決定されるとなると、売出金額は5000億円になります。過去6回の放出の中で見ると最も少ない金額ですが、昨年のIPO銘柄のうち大型案件と呼ばれた企業――電源開発(9513)の3700億円、新生銀行(8303)の2500億円、エルピーダメモリ(6665)や国際石油開発(1604)の1000億円強――と比べればやはり大きな金額になります。

これまでの売出状況をグラフの上で検証してみても、NTT株の放出が株式市場全体に対して短期的なプレッシャーになるのは避けられないところです。ただし今回の放出には、「これが最後の放出」というこれまでにない要素が加わります。第1回目の1986年から数えて20年間もかかりましたが、ようやくNTT株の放出に打ち止め感が出ることに対して、市場はプラスの評価を下すことも考えられます。

しかも2002年以降、NTTは自社株買いを積極的に行っており、市場に流通している株式は以前よりも減少しています。さらに第4回以降の放出は、海外向けへの売出も同時に行われており、今回も海外投資家に対して広く売出が実施される公算が高いはずです。あとはNTT自らが、どれだけ株主価値を高めるような経営を行ってゆくかにかかってくるでしょう。政府保有株の放出が市場に与える影響は、結局のところ「NTT株は買いか、売りか?」の判断にかかってくることになります。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

バックナンバー2005年へ戻る

目次へ戻る