「投資の形」に合わせて商品や金融機関を選ぶ
私たちにとって、NISAで購入する金融商品を選ぶのは簡単ではありません。これにはNISAの非課税口座を一人あたり1つしか持てないことが関係しています。現時点では、銀行や証券会社などの金融機関で非課税口座をいったん開設すると、その金融機関を最初の4年間(2014年1月1日~2017年12月31日)は変えられない取り決めになっています。つまり、私たちがNISAで購入できる金融商品は、自分が非課税口座を開いた金融機関で取り扱っているものに限られてしまうわけです。
金融庁では投資家の利便性を考慮して、非課税口座を開く金融機関の途中変更が可能になるよう、制度改正へ向けて準備を進めています。それが実現すれば、1年ごとに金融機関を変えられるようになる見込みですが、いずれにしても私たちがNISAを利用するにあたっては、金融商品と同時に金融機関を選ぶことも重要なポイントになりそうです。
上場株式は銀行や信用金庫では取り扱っていないため、株式の購入を考えている人は証券会社に口座を開く必要が出てきます。投信も金融機関によって取り扱う種類や本数、手数料が異なります。投資の選択肢を広げるという意味では、できるだけ品ぞろえが豊富な金融機関を選びたいですし、手数料も安いに越したことはありません。
ただし、最も大切なのは、私たちがNISAを利用して「どのような形の投資を行うか」をはっきりさせることだと思われます。それによって選ぶべき商品や金融機関は変わってきますし、利用上の注意点もより明確になるからです。
例えば、投信を使って国内外の株式と債券に分散投資を行う場合を考えてみましょう。大きく分けて、前回紹介した「バランス型ファンド」1本に絞って投資する方法と、日本株式・日本債券・外国株式・外国債券という市場ごとに4本の投信を選んでそれぞれに投資する方法が考えられます。
バランス型ファンドは、日本株や外国株のみに投資するタイプの株式投信と比べると、それほど大きなリターンは期待できないものの、値動きが穏やかで運用成績が安定しやすいという特徴があります。リバランス(資産配分比率の調整)を運用会社にお任せできる点も含めて、これから資産形成を始める投資の初心者に向いた商品ということができるでしょう。
しかし、カバーする市場が多くて運用に手間や人手が余計にかかる分、バランス型ファンドは販売手数料や信託報酬が相対的に高くなる傾向があります。最初から大きなリターンを期待せず、いわば保守的な投資を志向する人にとって、こうした投資コストの負担は軽視できない問題です。バランス型ファンドを資産形成の柱として考えるならば、少なくとも投資コストをつぶさに比較・検証したうえで、商品や金融機関を選ぶべきではないでしょうか。
英国では恒久化によってISA制度の普及が進んだ
市場ごとに4本の投信を選んで投資する場合は、当然のことながら、それら4つのタイプの投信がすべてそろっている金融機関が口座開設の条件となります。運用の分かりやすさや投資コスト低減の観点から、インデックス投信やETF(上場投資信託)も選択肢に加えておきたいところです。この方法ではNISAの制度上、リバランスが難しいという問題がありますが、購入の仕方を工夫することによって、ある程度はリバランスに近い効果が得られそうです。
NISAでは毎月決まった金額ずつ投信を購入する、いわゆる「定額積み立て投資」を行うことも可能です。4本の投信をそれぞれ毎月2万円ずつ、合わせて8万円購入していくと、12か月で1本あたり24万円、4本の合計では96万円となって、100万円の枠内に収まります。これを自動積み立てではなく、少々面倒ですが毎月注文を出して購入する方式にしておくと、投資の機動性を高めることができます。
例えば一時的に株式への投資を減らして債券への投資を増やしたいと思った場合、その月は国内債券と外国債券に4万円ずつ投資して、国内株式と外国株式への投資はゼロにします。厳密な意味でのリバランスとは異なりますが、月々の購入に濃淡をつけることで資産配分比率を調整するわけです。
それにしても、NISAを利用する側の私たちが、その利用法についてあれこれ頭を悩ませる必要があるというのは困ります。ISAの本家である英国では、投信の販売を「IFA」と呼ばれる独立系金融アドバイザーが仲介するのが一般的で、手数料は投資家とIFAの交渉によって決まる仕組みになっています。商品の入れ替え(スイッチング)も認められているため、リバランスにも不自由しません。
そして何よりも制度が恒久化されているため、投資家が安心して長期の資産運用に取り組めるという利点があります。英国でも1999年の導入当初は10年限定の制度でしたが、7年後に恒久化して以降、ISAの普及が格段に進んだそうです。せっかくこのような前例があるのですから、NISAも仕組みの改善に取り組んでもらいたいと思います。