「銀行国有化」が「預金者」にとって何を意味し、どのような影響を及ぼすか。
結論から言えば目先、預金保護の観点から見れば実質的な影響はありません。ただ、このことを考えるうえで切り離すことのできないのが、預金者以外の関係者である「借り手」「その銀行の株主」「経営陣と従業員」などを含めた個々の関係者への影響です。その影響度合いは、国有化の進め方によってまったく異なるものになります。
ここでは2003年5月、りそなグループに2兆円規模の公的資金を注入し、国が大株主となり、実質的に国有化することが決まったという最近の動きに焦点を絞ります。
りそなの実質国有化では、「預金者」にとっては今のところ全く影響がない模様です。
営業は通常通り、預金の預け入れや払い戻しにも影響がなく、通帳やキャッシュカードもそのまま使えます。公共料金の引き落としなどの金融サービスも継続されています。看板や行名も変わっていません。預金を慌てて引き出す動きはあまり見られず、むしろ、国有化で預金が安全になると考えた個人からの預金が集まっている支店もある模様です。
収益回復のために支店統廃合が進められる見込みで、場合によってはこれまで使っていた支店がなくなることもあるかもしれません。また、りそなグループの一員である埼玉りそな銀行については、地元の埼玉県内の経済界から同行をグループから独立させた方が良いとの声が急速に高まっていますので、もしかすると銀行名が変わることがあるかもしれません。
「株主」にとっての影響も少ないのが現状です。
株価の週足グラフを見ると、株価はむしろ戻り基調です。
竹中平蔵金融相が資本注入にあわせた減資を否定したからです。株券が紙くず同然になった破たん銀行の一時国有化の事例とは対照的です。
一方、「借り手」である融資先企業への影響はどうでしょうか。
不良な貸し出し先は新しい借り入れがしづらくなる可能性もあり得ます。「経営陣と従業員」への影響については、退任する役員には退職金が支払われない、従業員の年収、従業員数のカットといった方向性が示されています。今回の実質国有化は、「預金者保護」と「株価への悪影響を抑える」ことを最優先した形なのです。
公的資金注入の原資を税金を通じて負担している「国民」も利害関係者です。
りそなの実質国有化は、破たん処理ではなく、破たんする前に国が資本注入をし、経営を監視することで、新しい経営陣とともに合理化や収益回復の道を探るという新しい金融再生方法であると説明されました。国民という立場に立てば、りそな国有化という選択が、結果として「金融市場の健全化」を最も安上がりに進められる方法となるかどうか、今後もチェックすることが求められるでしょう。