1. いま聞きたいQ&A
Q

最近「ESG投資」という言葉を聞きましたが、その意味や活用法を教えてください。(後編)

投資対象銘柄をESGレーティングで総合評価

今回はESG投資が、特に私たち日本の個人投資家にとって、どのような意味を持つものなのか考えてみたいと思います。これは言い換えれば、ESG投資が個人投資家の間に根づくためのポイントは何か、という問いでもあります。

日本国内には今年(2012年)2月末現在、ESGを名称に冠する個人向けの金融商品は存在しませんが、今後はESG投資を前面に打ち出した日本株投信などが登場してくると予想されます。それをきっかけとして、これまで投資の社会性などをあまり考慮してこなかった個人投資家においても、「持続可能な社会づくりに貢献する」という国連のPRI(責任投資原則)の精神に賛同し、投資や資産運用のスタンスを見直す人が増えるかもしれません。

そうした意味から注目したいのは、運用機関が実際に行うESG投資の中身、すなわちESGの観点から見た株式銘柄の選別や重み付けに対して、個人投資家が十分に納得できるかどうかという点です。

運用機関がESG投資を実践するにあたっては、基本的に「スクリーニング」「エンゲージメント」という2つの手法が用いられます。スクリーニングでは投資対象候補となる銘柄すべてをE(環境)、S(社会)、G(企業統治)の各観点から定量・定性評価し、最終的にESGレーティング(格付け)を付与して総合評価します。その際、運用機関のアナリストが自ら評価にあたる場合と、専門のESGリサーチ会社による評価情報を参考にする場合があるようです。エンゲージメントでは、継続的な対話や株主議決権行使などの働きかけを通じて、投資先企業に長期的な企業価値の向上を促していきます。

前編でも紹介したように、ESGは企業にとってリスク要因であると同時に、新たな事業機会につながるリターン要因でもあります。従って当然のことながら、私たち個人投資家は運用機関が実践するESG投資に対して、リスク低減とリターン追求の両面を期待することになります。

顕在化していないESGリスクを管理できるか?

リスク低減の面では、現時点では顕在化していない企業のESG関連リスクをどれだけ客観的に評価し、管理できるかがポイントになるでしょう。例えば東日本大震災以前、日本のSRI(社会的責任投資)投信では、東京電力をはじめとする原発保有企業の株式を多く組み入れていました。対して欧米では、SRIにおいて原発保有企業はもとより、アルコールやタバコを製造する企業なども社会通念上、好ましくないとして投資対象から除外するケースが目立ちます。

ESGという非財務データの評価には、社会環境や生活習慣などによって意見が分かれたり、財務データの評価に比べて主観が混じりやすいといった難しさがあります。個人投資家の納得度を高めるためにも、運用機関にはESGの評価基準や銘柄選別の根拠について、できるだけ分かりやすい説明を求めたいところです。

リターン追求の面では、企業分析にESGという新しい評価尺度が加わることで、いわば従来は見過ごされてきた長期的なα(アルファ=銘柄選択によって得られるリターン)が獲得できるといわれています。ただし、日本のSRI投信における過去の運用成績を見る限り、一般的なアクティブ型株式投信とそれほど大きな差は認められません。

その理由のひとつとして、SRI投信の多くが他の株式投信と同様に、TOPIX(東証株価指数)をベンチマーク(運用基準)に設定していることが挙げられます。これから登場してくるであろうESG投信が個人投資家の支持を得るうえでは、SRI投信との違いを明確化するとともに、時価総額の大きさなどにとらわれない個性的な運用をどこまで実現できるかがポイントになるでしょう。

長期的な企業価値に着目するというESG投資の特性によって、長期投資の環境が改善される効果も期待できそうです。私たち個人投資家が株式の個別銘柄に投資する場合、従来は主としてPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった割安さの指標を参考にしていました。運用機関が公表するESG評価は、長期投資に向く銘柄を判断する新たな指標として機能するかもしれません

ESG投信などESG関連の投資資金は長期的な視点で運用にあたるため、いわゆる売買回転率(運用資産総額に対して組入銘柄の売買金額が占める割合)が低下に向かうと考えられます。例えば市場環境や事業環境の変化によって、組入銘柄の株価が大きく下がるような局面でも、ESG投資においては保有を継続するケースが増えそうです。株価の下支え要因として、個別銘柄への長期投資を志向する個人投資家にとっては、ひとつの安心材料となるでしょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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