輸出企業の収益が悪化する懸念
円高が日本経済に与える主な影響としては、次のようなものが考えられます。
<円高のメリット>
- 原材料から製品まで輸入品の価格が低下→コスト低下により輸入企業は増益基調に
- 日本国内の物価が全体的に下がり、海外旅行の費用も割安になる
<円高のデメリット>
- 輸出企業の収益が目減りし、国際的な競争力が低下→株価も下がりやすくなる
- 外貨建て金融商品の収益が目減りし、投資家の資産運用が悪化
円高になっても輸出企業が輸出先での販売価格(外貨建て)を上げないままだと、売上を円に換算した場合の受取額が目減りします(為替差損)。それを防ぐために外貨建ての販売価格を引き上げると、競争力が低下して製品需要が落ち込みます。いずれにしても、輸出企業の収益は悪化に向かう可能性が高いわけです。
あるシンクタンクの試算によれば、1円の円高によって各業種が被る経常利益の減少額は、自動車が1,127億円、電気機器が248億円、精密機器が150億円、鉄鋼が85億円となっています。
円高のプラス面も考えるべき
今年(2008年)5月13日現在、円・ドル相場は1ドル=103.60円。1ドル=120円前後だった昨年の中頃に比べると、最近は米ドルに対してかなりの円高傾向が続いています。ただし、以前にもご紹介したとおり、今回の円高はおおむね対米ドルに限られたものであることから、円高による輸出企業への影響はそれほど深刻なものではないと考えられます。
ここ数年、日本企業の輸出先はBRICsや東南アジアなどの新興国、欧州、中東など多くの国・地域に分散化が進んでおり、金額ベースで見た場合の米国の比率は下がってきました。加えて、輸出企業は原料を海外で調達し、海外に建設した工場で製造して売るという、いわゆる「生産の現地化」を大規模に進めたため、為替レートの変動が収益に及ぼす影響はそもそも減少しつつあります。
円高の影響が出てくるとすれば、むしろこれからではないでしょうか。
サブプライムローン問題に端を発した米国経済の減速や世界的な金融不安が、新興国や欧州などの経済にも影響を及ぼし、たとえば円がユーロに対しても高くなった場合。輸出入の決済通貨としてユーロが使われるケースも世界中で増えているため、極端な円高・ユーロ安は日本の輸出企業に大きなダメージを与えるかもしれません。
逆に「円高をチャンスととらえるべき」という考え方もあります。
円高による輸入支払い代金の減少は、そのぶん、まわりまわって国内の購買力を高めることにつながります。同時に日銀が金利を引き上げれば、預金利息の増加分が個人の購買力をさらに高め、内需主導の経済成長が期待できます。
一方で今後、中長期的に円安が進んでいく可能性も否定はできません。日本では少子高齢化が急速に進みつつあり、常識的に考えれば、よほど大きな経済構造の変革でも実現しない限り、経済成長の鈍化は避けられないでしょう。経済成長率の低い国、すなわち景気の悪い国の通貨は安くなる傾向があります。円安は輸出企業にとっては追い風ですが、食糧やエネルギー資源の多くを輸入に頼っている日本にとって、円安による輸入価格の上昇は死活問題です。
これまでは、ややもすると円高のマイナス面ばかりが強調されがちでした。しかし今後は、円高のプラス面や円安のマイナス面も踏まえて、国がその時々で戦略的な政策を打ち出すなど、為替レートに対してより大きな視野と柔軟な考え方が求められてきそうです。