1. いま聞きたいQ&A
Q

資産運用において、「売却」が「購入」より難しいといわれるのはなぜですか?

自分が使うための売却を躊躇する理由はない

それが例え運用資産の一部であっても、資産を売却した場合、私たちは一時的に運用の損益を確定させることになります。資産運用において売却(売り時)が、購入(買い時)よりもはるかに難しいといわれる理由はそこにあります。多くの個人投資家にとって、運用損益を自らの手で決めてしまうことには、かなりの勇気や逡巡(しゅんじゅん)を必要とするようです。

その背景には、例えば株式を売却した後に、その株式が値上がりしたら困るといった心理が働いていると思われます。購入時より値上がりした株式の売却にあたっては、「これからまだ値上がりするかもしれない」と勝手に想像を膨らませ、購入時より値下がりした株式の売却にあたっては、「そのうち買い値あたりまでは戻るはすだ」と自分に言い聞かせてしまうのです。いずれにしても、まだ見ぬ将来の値上がりという収益チャンスを取り逃すことに対して、私たちは過大な恐れを抱きがちです。

ここで考えてみたいのは、そもそも私たちはどのような時に、運用資産を売る必要に迫られるのかということです。多くの人にとって、資産運用の究極の目的とは、将来的に自分が使う「生活資金以外のお金」をつくることのはずです。私たちにとって最も重要な運用資産の売り時とは、自分がそれを換金して使う時に他ならないわけです。

自分や家族が病気で入院したり、住宅を購入するなど、まとまったお金が必要になった時こそ、運用資産のなかから必要な金額分を迷うことなく売却して、それに充てるべきでしょう。資金ニーズが自分にとって「本当に必要なこと」ならば、たとえ売却によって運用の一部損失が確定しようとも、「使う」という本来の目的が達成される以上、それは単なる結果論であり、取るに足らないことといえます。売却した資産がその後に値上がりするかどうかなど、考えるまでもありません。

こうしてみると、自分が使うという目的において運用資産を売る必要に迫られた場合には、私たちがその売却を躊躇する理由は何もないことになります。

ほかにも、私たちが自分の意に反して運用資産の売却を迫られるケースがあります。企業の不祥事や経営悪化などにより、保有する株式や社債の価値が損なわれたような場合です。このケースにおいても、重要なのは運用の損益状況ではなく、株式や社債がそれ以降も保有するに値するかどうかということです。もはや保有するに値しないと判断したならば、売却を躊躇する理由など何もないはずです。

売りたいという誘惑を正当化させる損切りルール

私たちが運用資産の売却を本当に迷うのは、売る必要に迫られた場合ではなく、「売りたい」という誘惑に駆られた場合なのではないでしょうか。例えば米国金融危機やギリシャ危機に際して、本来は直接的な影響が少ないと思われた日本株も、たびたび大きな下落に見舞われました。それがいわゆる外部要因による連鎖的・間接的な影響であると分かっていても、下落による運用のダメージがいつまで続き、どこまで深くなるのか分からないような時、「売りたい」という誘惑はいっそう大きくなりがちです。

こうした個人投資家の迷いに対して、FP(ファイナンシャルプランナー)などの専門家からは、「自分で損切りのルールをつくって対処すべき」というアドバイスがよく聞かれます。例えば自分が運用している株式資産の価格が購入時から20%下がったら、株式資産の2%を自動的に売るといったルールを決めておき、それを忠実に実行することで売却に対する迷いを振り払い、いたずらな運用損失の拡大を防ぐという考え方です。

「損切りルール」の有効性を実証するデータもあるようですが、一方でこの方法には死角も多いように思われます。価格の下落が不安になるほど大きいものであっても、それが運用資産の本来的な価値と無関係なものならば、その資産の価格水準は下落によって割安になったと考えられます。買い値を重視する投資家にとっては、売り時などではなく、逆に絶好の買い時になるわけです。また、これもFPなどの専門家が推奨する「保有資産のリバランス」という観点からみても、目減りした資産は本来、追加購入の対象であり、売却の対象ではありません

損切りルールにもとづく自動的な運用資産の売却には、私たち個人投資家に「自分で損失を確定させるのではない」という言い訳を与え、自らの判断や決断を経ることなく、売りたいという誘惑を正当化させる側面もあるような気がします。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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