カネ余りが投資ブームを呼んだ
中国ではここ数年、年間の経済成長率が10%を上回る状態が続いており、今年(2007年)もその勢いに翳りは見られません。中国政府の発表によると、今年の各四半期におけるGDP(国内総生産)の伸び率は1~3月期が11.1%、4~6月期が11.9%、7~9月期が11.5%と、いずれも高水準で推移してきました。中国政府系のシンクタンクである中国社会科学院では、年間のGDP伸び率が2007年は11.6%、2008年は10.9%になると予測しています。
こうした中国経済の高成長を支えているのが、輸出による貿易黒字の拡大です。中国の貿易黒字額は2006年、当時としては過去最高となる1,775億ドルを記録しましたが、今年はそれを大きく上回り、1~10月の累計ですでに2,123億ドルと初めて2,000億ドルの大台を突破しました。加えて海外からの対中直接投資も、今年1~9月の累計で前年同期比10.9%増の472億ドルとなるなど、順調に増え続けています。
貿易黒字や直接投資の拡大は、中国の国内にいわゆる「カネ余り」(過剰流動性)の問題を引き起こしました。国や企業が儲けたお金や海外からの投資・投機資金は、銀行や保険会社などへ大量に流れ込みます。銀行や保険会社はそれら多額のお金を、より有利な運用を求めて株式や不動産へ投資します。その結果、株式や不動産が著しく値上がりし、それを見た一般市民も株式や不動産への投資を過熱させるという投資の一大ブームが中国で起きているのです。
中国の個人投資家のあいだでは、不動産を担保にして銀行から借り入れたお金や老後に受け取った年金で株式を買う、といった動きが広がっています。住宅ローンを名目に実行された融資の一部や、銀行預金の一部が株式投資へ向かっているとの指摘もあります。
金融引き締めの動きが鮮明に
中国株は今年、いわゆる上海ショックや米国のサブプライムローン問題などによって一時的な調整を余儀なくされながらも、全体としては大きく上昇しました。たとえば、市場の全体的な値動きを示す株価指数について、今年の年初から11月末までの騰落率を見てみると、上海市場の「上海総合株価指数」がプラス78.6%、香港市場の「ハンセン指数」がプラス43.2%となっています。
中国経済が大きな成長を続けるなかで、現在の株価水準が妥当かどうかについては、専門家の間でも意見が分かれるところです。ただし、中国経済および中国株の今後を占ううえでヒントになりそうな注意点はいくつかあります。
中国政府はこれまで、国際的な輸出競争力を維持するために、為替市場で大規模な「人民元売り・ドル買い」介入を続けてきました。それがここにきて、介入の規模を縮小する動きが出てきたのです。人民元の対ドル相場は、今年10月中旬に開かれた中国共産党大会の終了とともに上昇速度を速め、11月の1カ月間では0.85%の上昇を記録しました。これは単月の上昇率としては、過去2年あまりで最大の数字です。
その背景には、「人民元が実力よりも安く誘導されているために、対中貿易赤字が拡大している」という米国の非難をかわすとともに、国内のインフレ懸念にも対応を迫られているという事情があります。昨年までは経済が2ケタ成長を続けながらも物価上昇率は2%以下で安定していましたが、今年10月の消費者物価指数は前年同月比で6.5%の上昇となり、政府が目標とする2%以下を大きく上回りました。
このほか中国政府では、外貨準備のうち30億ドルを米国の投資ファンドへ出資したり、保険会社による海外投資拡大を奨励するなど、過剰なお金を海外へ逃がすことで国内市場の沈静化を図る試みを始めています。今年だけで5回も実施した利上げのさらなる加速や、銀行に融資量の抑制を指示する窓口指導の拡大など、今後は金融引き締めを強化する動きがいっそう鮮明になりそうです。
経済の高成長を維持しながらも、景気の過熱と資産バブルを防ぎたいという中国政府の相反する思惑は、しばらく綱引きが続くことでしょう。中国では2008年に北京オリンピック、2010年には上海万博という国家をあげての2大イベントを控えています。これらが終わる頃には、中国経済の行方がはっきり見えてくるかもしれません。