構造的な経営怠慢と高コスト体質
直接的な原因は、2008年前半に原油価格が高騰したことと同年9月に米国で金融危機が発生したことです。ビッグ3とは米国のデトロイト市周辺に本社を置く3大自動車メーカー、GM(ゼネラル・モーターズ)、フォード・モーター、クライスラーの総称で、いずれも燃費性能が相対的に低い大型車が主力商品です。原油価格の高騰を受けてガソリン価格が値上がりしたため、大型車は消費者から敬遠され、販売台数が急激に減少。ビッグ3の米国内における販売シェアは、2008年7月に初めて日本の自動車メーカー8社の合計に抜かれました。
そこへ金融危機が追い討ちをかけました。高額消費が減少するなか、融資条件の厳格化によって自動車ローンを組めなくなる米国民も続出し、自動車販売台数はさらに減少します。銀行の貸し渋りも重なって、ビッグ3は運転資金の調達もままならなくなり、2008年内の経営破綻も危惧されるようになりました。そのためビッグ3は11月、米国政府に対して公的支援を要請。紆余曲折を経て米国政府は12月、手元資金に比較的余裕があるフォード・モーターを除くGM、クライスラーの2社に、総額174億ドルの「つなぎ融資」を決定しました。
一方、ビッグ3が経営危機に陥った背景として、米国の自動車産業にまつわる構造的な問題を見逃すことができません。経営面の怠慢と、高コスト体質です。
ビッグ3をはじめとする米国の自動車メーカーはこれまで、伝統的な大型車の製造に傾斜し、燃費の良い小型車や高性能車の開発をなかば怠ってきました。日本などに比べると米国の道路は広くて直線が多いため、そもそも消費者の燃費に対する意識が薄く、それがビッグ3の「おごり」や停滞につながったという事情もあるでしょう。加えて、米国が1981年から94年まで日本の自動車メーカーに対して事実上の輸出規制をかけたことからも分かるように、米国政府の保護主義や甘やかしが、ビッグ3の怠慢傾向を助長したという面も多分にあったと思われます。
人件費や過剰設備などの高コスト体質も深刻です。ビッグ3では、1960年代に整備された従業員・退職者向けの医療保険や企業年金が充実しており、たとえばGMの労務費(給与や社会保障費)は、時給換算でトヨタ自動車よりも3割程度高くなっています。また、米国におけるビッグ3の販売店数は合計で約1万4,000店と日本の大手メーカー3社(トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車)の3倍超にのぼり、販売店網の過剰さも目立ちます。
こうした高コスト体質は当然のことながら、競争力の低下につながります。しかし、その問題は全米自動車労組(UAW)の強力な影響力と米国政府による支援の陰で長期間、放置され続けてきたのです。
米国政府は破綻処理も視野に検討中
GMとクライスラーは今年(2009年)2月17日、米国政府に経営再建計画を提出するとともに、追加の公的支援を要請しました。米国政府は3月末までに支援の是非を決定する予定ですが、これが実現すると、公的支援の累計額はGMが最大300億ドル、クライスラーが最大90億ドルとなります。しかし、その道のりは非常に険しいものと言わざるをえません。
両社の経営再建計画では、人員削減やブランド(車種)の絞り込み、工場閉鎖などのリストラ策が示されたものの、抜本的な再建計画にはほど遠いものでした。たとえば2008年12月の支援決定時には、UAWや債権者との協議を通じて、労務コストや巨額債務の圧縮へ向けた抜本的な計画を策定することが、政府支援の最低条件となっていました。しかし、今回両社が提出した計画では、UAWや債権者との間で話し合いもついていないのが現実です。
また、両社は自らが経営破綻に追い込まれた場合、その破綻処理にあたってGMの場合は1,000億ドル、クライスラーの場合は240億ドルの公的資金が必要になると、それぞれ主張しました。すなわち、米国政府が現段階で追加支援を選択した方がかえって安上がりになると、いわば「脅し」をかけてきたのです。こうした姿勢を見るかぎり、両社を窮地に追い込む一因となった甘えやおごりの体質は、いまだに変わっていないように思えます。
強気な見通しとは裏腹に、GMの2008年12月期(通期)決算における最終損益が308億6,000万ドル(約3兆円)の大幅赤字となるなど、両社の業績は悪化の一途をたどっています。米国政府では破綻処理(破産手続き)も視野に入れながら、あらゆる選択肢を検討している模様で、3月末に向けてGMとクライスラーの命運は予断を許さぬ状態が続きそうです。