1. いま聞きたいQ&A
Q

ウクライナ問題の背景と、国際的な影響について教えてください。(後編)

制裁合戦により事態はさらに混迷へ

事態はさらに混迷の度合いを深めています。ウクライナ南部クリミア半島の住民投票で「ロシアへの編入」が圧倒的に支持されたことを受けて、ロシアのプーチン大統領は今年(2014年)3月18日、クリミア自治共和国の代表らとともに編入の条約に調印しました。

日米欧はただちに反発を表明し、ロシアに対する追加制裁を決定。主要7カ国(G7)は緊急の首脳会議を開き、クリミア編入の撤回などロシアが態度を改めない限り、同国を主要8カ国(G8)の枠組みから当面の間、除外する方針を打ち出しました。ロシアが議長を務める6月のソチ・サミットもボイコットすることで合意しています。

市場はまだ平静さを保っていますが、地政学リスクへの警戒から株式を「買い超過」とする投資家の割合が減っているほか、小麦や金、パラジウムなど一部の商品で相場が上昇するなど、じわじわと影響も広がりつつあります

気になる今後の展開ですが、ロシアも米国政府高官などを対象に同様の制裁措置を発表し、相変わらず欧米との対決姿勢を崩していません。事態はいわば「制裁合戦」の様相を呈してきており、解決の糸口は見えないのが現状です。

問題のそもそものきっかけは、ウクライナがEU(欧州連合)との関係強化を目指して締結する予定だった「連合協定」への署名を、昨年11月に当時のヤヌコビッチ大統領が拒否したことでした。それを機に、ウクライナの首都キエフでは親欧米派の市民を中心に反政府デモが広がり、今年2月の政変(親欧米政権の樹立)へとつながっていくわけです。

ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの反政府デモやロシア国内の都市部で発生した「反プーチン・デモ」を、欧米が資金提供などを通じて支援したと批判しています。政治評論家の間では、こうしたロシアの「欧米に対する不安や不信」を欧米自身が十分に配慮しなかったことが、今回のロシアの強硬姿勢を招いたという声も聞かれます。

大国のご都合主義が今後も紛争を招く?

ただし、こうした論調には一番の当事者であるウクライナの事情が反映されていません。ウクライナでは2010年に親ロシアのヤヌコビッチ大統領が就任して以降、汚職のまん延によって大統領の家族や側近が蓄財する一方で、国民は貧困にあえぎ、腐敗した政権への怒りが充満していました。

ウクライナ内部にも、歴史的な民族間の対立という紛争の種があったことは確かです。しかし結局のところ、大国の思惑に翻弄される形となったウクライナ国民にとっては、いい迷惑と言うほかありません。同国では政情不安によるビジネスの停滞によって、2014~15年における経済成長率の目減り幅が合計20ポイントに達するとの予測が出ており、しばらくは経済的な低迷を強いられることになりそうです。

大国のなかではロシアとともに、米国の断固とした対応が目につきます。EUに比べてロシアとの経済的な依存関係が薄いという事情もあるでしょうが、それにもまして中国に対するメッセージという意味合いが強いようです。今回のような、いわば力による現状の変更を黙認した場合、東シナ海や南シナ海で実効支配の強化に動く中国が、さらに増長しかねないと警戒しているわけです。

その中国は欧米の対ロシア制裁には反対を表明したものの、一貫してロシア支持への明言は避けています。国内にウイグル族など少数民族の独立問題を抱える関係上、ウクライナを分離・分裂する動きに表だって賛成できないからといわれています。

日本の立場も難しくなってきました。安倍政権は発足以来、プーチン大統領との間で5回の首脳会談を重ねてきましたが、そこには北方領土交渉の進展はもちろん、中国へのけん制カードを握るという狙いもあったはずです。もしもロシアの動きを例外扱いすれば、中国への示しがつかなくなるわけで、安倍政権はロシアとの外交戦略を見直す必要に迫られています。

複雑に絡み合う大国の思惑は、好意的にみれば「深謀遠慮」といえるのかもしれません。しかし実際には、ご都合主義的な側面が大きいことも確かでしょう。グローバル化と言いながら、国家間の結束も弱ければ相互理解への意欲にも乏しく、自己保身と利害関係ばかりがむき出しになる――。そんな冷戦後の「冷たい世界」が続くかぎり、今回のような紛争が各地で起こることは今後も避けられないかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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