1. いま聞きたいQ&A
Q

米国における財政協議の迷走ぶりから、何を読み取ることができますか?

上下両院が対等という議会運営の特殊性

米国では今年(2013年)10月1日から、政府機関が一部閉鎖に追い込まれる事態となりました。これは2014会計年度(13年10月~14年9月)の暫定予算案を巡って与党・民主党と野党・共和党が対立し、米国政府の予算執行を裏づける暫定予算が不成立のまま新年度を迎えたためです。80万人以上の政府職員が自宅待機となり、博物館や国立公園などが閉鎖されたほか、雇用統計や貿易収支など一部の重要な経済統計も発表が延期されるなど、影響は広範囲にわたりました。

さらに深刻だったのが、与野党による米国政府の債務上限引き上げ協議が難航した問題です。債務上限の引き上げが実現しないと、米国政府は追加の国債発行などを通じた資金調達(借金)ができなくなり、米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る懸念も生じます。米国財務省によると、そのデッドラインは国庫がほぼ底をつく10月17日ということでした。幸いにも、10月16日に米国議会は2014年上旬までの期限付き暫定案で合意し、いずれの問題も先送りという形でひとまず決着しました。

米国でこうした「決められない政治」が目立つ背景として、議会運営の特殊性が挙げられます。例えば日本では、衆議院と参議院の議決が異なる場合、予算で先議権を持つ衆議院の判断が優先する決まりになっています。米国議会も日本の国会と同じく上院と下院の二院制ですが、権限は両院が対等であり、上下院が共に可決した法案に大統領が署名しない限り、国家予算は成立しません。

2010年の中間選挙で民主党が惨敗して以降、米国議会では上院が民主党、下院が共和党と両院で多数派が異なる「ねじれ」の状態が続いています。今回の財政協議では通称「オバマケア」と呼ばれる医療保険改革の是非が大きな争点となり、オバマケアの完全施行を最重要政策の一つと位置付けるオバマ大統領および民主党と、その延期や修正・撤廃を求める共和党の間で、相譲らぬ攻防が繰り広げられたわけです

とくに下院の共和党ではここ数年、草の根保守運動「ティーパーティー」(茶会)の影響力が大きくなっています。茶会はいわゆる保守強硬派勢力にあたるもので、オバマケアが10年間で1.1兆ドルの新たな財政負担を生むことに加えて、ヒスパニック系移民などのマイノリティー(少数派)にも手厚いことをよしとせず、2010年の中間選挙時からその撤廃を目指してきました。

下院の共和党議員が2014年秋の中間選挙や、その党内候補者を選ぶ予備選挙をにらんで、茶会の顔色をうかがっていることは明らかでしょう。それが今回の財政協議の迷走につながったとすれば、何のことはない、根っこにあるのは単なる選挙対策ということになります。それに振り回された米国政府の職員や、米国債のデフォルトにやきもきした市場はいい迷惑と言うほかありません。

オバマ大統領はすでに政治資本を失った?

ただし、もう少し視野を広げて眺めてみると、今回の問題の違った側面が見えてきます。例えば今年の8月から9月にかけて、米国政府はシリア内戦への関与についても迷走ぶりを露呈しました。オバマ大統領が一度はシリアへの軍事介入を公言したものの、世論と議会の承認が得られず、最終的にロシアのプーチン大統領による非軍事的な解決案を受け入れることとなったのです。

FRB(米連邦準備理事会)の次期議長人事を巡っても、ひと騒動がありました。オバマ大統領は7月末の時点でサマーズ元財務長官を推す趣旨の発言をしましたが、世論に加えて民主党内からも反対意見が噴出し、サマーズ氏は9月中旬に議長指名を辞退。10月に入ってようやく、史上初の女性議長となるイエレン氏の就任が決まりました。

このように内政から外交まで、米国で政治の迷走が相次ぐ要因として、オバマ大統領がポリティカル・キャピタル(政治資本)をすでに失っているのではないかと指摘する声があります。政治資本とは、世論の支持などを源泉とする全般的な影響力のこと。オバマ大統領の任期はまだ3年ほど残っており、その政治資本が本当に失われつつあるならば、選挙に関係なく今後も同じような迷走が繰り返される可能性は大きいといえます。

翻って日本はどうでしょうか。アベノミクスの第1・第2の矢が功を奏し、日本経済に再生の兆しが見えてきたことから、安倍晋三首相の政治資本はここにきて大いに強化されています。しかし、だからこそ逆に、オバマ大統領の盛衰を今こそ教訓とすべきなのかもしれません

世論の支持すなわち人気の高さは政治的な実行力の裏付けとなりますが、人気が高ければ高いほど、期待が裏切られた時の人々の落胆も大きくなります。第3の矢である成長戦略においては、既得権益層との間でさまざまな摩擦や抵抗が避けられません。自らに与えられた政治資本には、それらを打ち破るだけのパワーと責任があることを、安倍政権はしっかり認識してほしいところです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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