埋蔵量3割の中国が97%を供給するいびつな市場
レアアース(希土類)とは、31種類あるレアメタル(希少金属)のうち、特に17種類の元素を総称した呼び名で、ハイテク製品の生産に欠かせない重要な元素を多く含んでいるのが特徴です。例えば「セリウム」は液晶ディスプレーなどのガラス研磨剤として、「ネオジム」はハイブリッド車や携帯電話などのモーター用高性能磁石として、それぞれ利用されています。
今年(2010年)の9月、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船と中国の漁船が衝突する事件が起き、それを機に中国がレアアースの対日輸出を制限する騒ぎとなりました。中国は世界のレアアース生産量の約97%を占めており、日本も輸入の8割超を中国に依存しているため、中国からの供給が滞れば、さまざまな産業に影響が及びます。
しかしながら、レアアースの供給不足に対する懸念は、いまに始まったことではありません。中国政府は2005年ころからレアアースの輸出規制を強めつつあり、今年の世界向け輸出量は昨年比で4割も減らす方針です。10月には日本に加えて欧米向けの輸出も制限されました。供給減少を受けてレアアースの価格は高騰し、1年前に比べてセリウムは約6倍、ネオジムは約4倍まで価格が上昇しています。
中国がレアアースの生産と輸出を制限した目的のひとつは、輸出価格の引き上げです。その意味では、いまのところ中国の狙いどおりに事は進んでいるようです。一方で、中国のレアアース埋蔵量は世界全体の3割強にすぎず、現在のペースで生産を続けた場合、15~20年後には一部のレアアースが枯渇する恐れがあるといわれています。中国は世界最大のレアアース消費国でもあり、戦略物資としてレアアースの寿命を延ばしたいという思惑もあるようです。
さらに、中国はレアアースをいわば“餌”として、海外企業の国内誘致を狙っているという見方もあります。海外企業に国内企業との合弁とハイテク製品の中国現地生産を促し、海外からの技術移転を目論んでいるというわけです。
先進国はコスト面で中国を利用してきたともいえる
ところで、なぜ埋蔵量で世界の3割強にすぎない中国が、レアアース市場をここまで独占することになったのでしょうか。実は、1980年代前半までは米国が世界最大のレアアース産出国でした。今日でもレアアースの埋蔵は米国をはじめ、ロシアなどの旧ソ連圏や豪州、インドなどに幅広く分布しています。ところが90年代に、中国が内陸部の安価な労働力などを武器にコスト競争力を高めた結果、他の国は生産を中止あるいは縮小することとなったのです。
中国がコスト競争力に勝る理由のひとつとして、環境規制の緩さも挙げられます。レアアースを含む鉱石には、ウランなどの放射性元素も一緒に含まれています。中国がそれらによる環境負荷の軽減に配慮しなかったことも、生産価格の低下にひと役買うことになりました。一方で、中国のレアアース採掘現場周辺では深刻な環境汚染が進んでいる模様です。
今回のレアアース問題は、中国によるレアアース消費国への政治・外交的な揺さぶりや、国際貿易上のルール違反といった側面があることは確かです。ただし、今日にいたる経緯を見ると、中国だけを悪者にするのもどうかという気がします。例えば、日米欧などレアアース需要の大きい先進国はコスト面で中国に依存し、中国を半ば利用してきたともいえるわけです。中国で進む環境汚染には目をつぶりながら、低コストで得たレアアースで環境配慮型の製品をつくるのは、皮肉といわざるを得ません。
日本では現在、レアアースの調達先を中国以外に広げたり、レアアースの使用量を減らすための代替技術やリサイクル体制の確立に乗り出すなど、さまざまな対策を急いでいます。レアアースの価格高騰にともなって、世界各地でコストが見合う鉱山も出てきており、例えば米国ではかつて閉山した鉱山の操業再開も決まりました。
ただ、こうした動きに対抗して中国が再び生産量を増やすと、価格が下落に転じて新たな鉱山が立ち行かなくなったり、代替技術の開発が無駄になる恐れもあります。価格や供給に関して長期的な展望が見えづらいなか、今後もレアアースへの需要が増えていくとするならば、投機マネーの動きにも注意が必要かもしれません。