1. いま聞きたいQ&A
Q

MBO(マネジメント・バイアウト)について教えてください。

株主の圧力から解放されて経営の自主性を取り戻す

MBO(マネジメント・バイアウト)とは、経営陣が参加する企業買収のこと。創業者やオーナーなどの経営陣が、銀行や投資ファンドなどから投融資を受けて買収資金を調達し、株主から自社の株式を買い上げたり、特定の事業部門を買収したりするのが一般的です。

米国では1980年代からMBOが活用されていましたが、日本では2000年代に入って普及が進みました。とくに2005年以降はMBOによる株式の非公開化、すなわち上場廃止を選択する企業が多くなっています。例えば2010年から2011年にかけて、幻冬舎(出版業)やCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ=映像・音響レンタル業)、アートコーポレーション(引越し業)など一般にもなじみが深く、市場での期待も高かった企業が、上場廃止を前提としたMBOを実施して話題を呼んでいます。

企業がMBOを通じて上場を廃止する最大の目的は、株主の意向や監視から逃れることです。こう言ってしまうと、自己保身的な後ろ向きの方策のように聞こえますが、あながちそうとも限りません。

上場企業は頻繁に入れ替わる株主からさまざまなプレッシャーを受け続けるという、いわば「株式公開の宿命」を背負っています。株価水準の動向や株主への利益配分に気を配るあまり、大規模な事業拡大や資産売却といった積極的な意思決定に時間がかかったり、長期的な視野に立った経営方針が制約を受けることも少なくありません。MBOによる上場廃止は、企業がこうした株主の圧力から解放されて、経営の自主性や自由度を取り戻すという意味合いが強いわけです。

加えてコスト面の事情もあります。四半期決算の発表や内部統制報告書の作成など、上場企業に義務付けられる情報開示や事務作業は手間もコストも増加の一途をたどっています。一方で、超低金利や銀行による貸し出し縮小が続くなか、企業に一定の信用力さえあれば、銀行融資や社債発行などを通じて必要な事業資金を比較的低コストで調達しやすい環境が整ってきました。少なくともコスト面から見るかぎり、一部の企業にとっては、大きな負担を覚悟してまで上場を維持するメリットが薄れてきているのです。

実は前述した3社を含めて、最近のMBO案件のほとんどが、いわゆる内需関連企業によるものです。これらの多くに共通するのは、潤沢な現金を資産に抱え、キャッシュフローも安定しているために信用力は高いものの、国内市場を相手にしていることで成長期待が高まらず、株価が低迷していること。株価の低迷はすなわち買収コストも低く抑えられることを意味するわけで、まさしくMBOを実施しやすい条件がそろっているといえるでしょう。

株式買い取り価格が低すぎるという批判も根強い

MBOについては、いくつかの問題点も指摘されています。ひとつは、自社に投資してくれた株主に対する道義的な問題です。

何かと注文の多い「厄介な株主」がいることは事実だとしても、もともと企業はそれも含めて株式公開のプラスとマイナスを天秤にかけ、上場の道を選んだはずです。なかには配当や株主優待も期待しながら長期投資を考えていた個人株主もいるでしょう。株価が低迷しているからといって、こうした少数株主を結果として排除するような姿勢は、上場企業の「ご都合主義」と非難されても致し方ないかもしれません。

さらに大きな問題は、MBOを実施するタイミングも価格も、経営陣が自由に決められるという点です。企業がMBOを行う際には通常、直近の株価にプレミアムを上乗せして、株式公開買い付け(TOB)の価格を提示します。そのプレミアムが10~50%と企業ごとにまちまちなうえ、株主によっては提示されたTOB価格が自分の当初の購入価格を下回るケースも出てきます。

過去には企業の提示価格に納得しない株主が訴訟を起こし、裁判所がそれより高い買い取り価格を決定した例も2件ありました。また、前述したCCCのケースでは、買収者(同社の社長)と会社(CCC)がそれぞれ独自に買い取りの適正価格を算出し、買収者が実際に提示したTOB価格を、会社側の試算価格が上回るという奇妙な現象が起きています。

これを受けてCCCでは、買収者のTOBに対して株主に応募を促さない「中立」の立場をとるという、異例の見解を表明しました。こうした例を見てもわかるように、MBOには何かと不透明な点が多く、「既存株主に不利」という批判が根強いのが現実です。今後は買い取りの最低基準を設定するなど、MBOに関するルールの整備を急ぐとともに、企業にも株主への節度ある対応を求めたいところです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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