歴史的な割安さを示す株価指標
この2カ月ほど、国内の株式相場は激しく乱高下しました。日経平均株価の終値は今年(2008年)9月8日の時点で12,624.46円でしたが、10月8日には9,203.32円まで下落します(-27%)。そこからさらに10月27日には7,162.90円まで下落し(-22%)、11月7日現在では8,583.00円となっています(+20%)。11月に入って少し盛り返しましたが、2カ月間で32%も急落したことになります。
そんななか、株価の割安度や収益性を測るうえで参考になる指標が、異常ともいえる数値を示す例が目立ってきました。たとえば「PBR(株価純資産倍率)」は通常、1倍に近づくほど株価が割安と見なされますが、東証1部上場全銘柄の平均PBRが1倍を下回ったうえに、日本を代表する有名大企業のPBRが1倍を下回るケースも出てきたのです。11月7日現在、東証1部銘柄の平均PBRは0.98倍。日産自動車(0.49倍)、ソニー(0.64倍)、日本電信電話(0.82倍)、パナソニック(0.86倍)、三菱商事(0.87倍)、トヨタ自動車(0.91倍)などは、平均値すら下回っています。
配当水準の高さを示す「予想配当利回り」は、一般に年率2%台の後半以上で高配当銘柄と見なされます。ところが11月7日現在、3%を超える銘柄が数多く存在しています。とくに目立つのは日産自動車(9.48%)の群を抜く高さですが、ほかにもトヨタ自動車(4.05%)、シャープ(3.93%)、任天堂(3.85%)、コマツ(3.75%)、武田薬品工業(3.60%)、キヤノン(3.36%)など、いわゆる国際優良銘柄が目白押しです。今後の業績悪化による減配や無配の可能性も残るとはいえ、日本の主要銘柄の配当利回りが現在、過去最高の水準に達していることは間違いありません。
安値で買うなら同じ銘柄の追加購入が有効
相場の急落にともない、株価指標で見るかぎりでは日本株の「お得さ」が際立ってきたわけですが、そんななか、投資家がとる行動は大きく2つに分かれるのではないかと思われます。
ひとつは、損失を覚悟で保有株式を売却(現金化)したり、国債などリスクの低い資産に移すことです。この行動は一見すると消極的なようですが、米国の金融危機に端を発した現在の荒れ相場は、投資のプロでさえ「説明が難しい」と言うほどの事態です。「よく分からないものには手を出さない」という観点では、相場が安定するまでリスクから遠ざかって様子見に徹するというのも、理にかなっていると言えます。実際に、ある株式ファンドの運用担当者は、現在の相場環境では前述したような株価指標がいずれも通用しないと判断し、安値で買い増したい気持ちを抑えて、あえて現金の比率を高めているそうです。
一方でもうひとつ、相場の急落をチャンスととらえて、積極的に安値を拾うという行動もあります。東京証券取引所の発表によると、今年10月に東京・大阪・名古屋の3市場で個人による株式の買越額(買い金額-売り金額)が、月間ベースでは過去最高の9,927億円に上りました。東京市場で売買の6割を占める外国人投資家は、同月に1兆円以上の売り越しと相変わらず売り姿勢を強めていますが、そんな外国人投資家のなかにも「財務の健全性からみて日本株は売られすぎ」といった声が増えてきています。
安値で買うといっても、すでに有望と思われる銘柄を保有している場合、いったん換金して他の銘柄への乗り換えを検討するぐらいなら、同じ銘柄を追加購入する方がはるかに有効です。
たとえば、最初に株価が1,000円の銘柄を100万円購入し、株価が600円まで40%値下がりした時点で同じ金額(100万円)を追加購入すると、平均購入コストは750円となります。これだと現在の株価600円が750円まで25%上昇すれば、損益はゼロになる計算です。一方、株価が600円になった時点で換金し、手元に残った60万円で株価が500円の新しい銘柄を全額購入したとします。それが40%上昇して株価が700円になっても、まだ16万円の損失であり、損益をゼロに戻すためには株価が834円まで67%も上昇しなければなりません(手数料や税金は考慮せず)。
いずれにしても、昨今のような荒れ相場においては、追加購入の資金を確保しておくことと、銘柄選択の目を従来以上に厳しく光らせることが重要です。銘柄選択にあたっては、株価指標が必ずしも当てになるとは限らないため、これらを必要以上に気にするのではなく、むしろ財務面や技術力など企業の健全性や将来性にいっそうの注意を払うことが大切でしょう。こうした意味から、複数の銘柄を保有している投資家の場合、分散投資の戦略を一時的に見直して、より信頼できるいくつかの銘柄に資金を集中させることを考えてみてもいいかもしれません。