1. いま聞きたいQ&A
Q

英国の銀行などが、金利を不正操作していた問題について教えてください。

自己申告の仕組みが偽装や談合を招いた

英国の大手銀行バークレイズに対して今年(2012年)6月末、米英の金融当局が総額2億9,000万ポンド(約360億円)という巨額の課徴金を命じました。バークレイズが2005年から2009年にかけて、LIBOR(ライボー=ロンドン銀行間取引金利)の申告金利をたびたび不正に操作していたことが発覚したからです。

その後の調べで、LIBORの不正操作にはバークレイズ以外にも複数の銀行が関わっていた疑いが浮上。欧米を中心に15の大手銀行が調査を受けるという、世界的な金融不祥事に発展しました。英国の中央銀行であるイングランド銀行の関与が取り沙汰されているほか、米英金融当局が2008年の段階で不正操作の事実を把握しながら放置していたことが明るみに出るなど、銀行監督サイドの責任も問われる事態となっています。

LIBORは、世界の主要銀行が短期市場において資金を融通し合う際に支払う金利の目安となるもので、いわば銀行にとっての「お金の仕入れ価格」にあたります。小売店が仕入れ価格にコストや利益を上乗せして商品を売るのと同じように、銀行は融資に際して、LIBORに一定幅の金利を上乗せして企業や個人にお金を貸し出します。

融資のほかにも社債やデリバティブ(金融派生商品)など、さまざまな金融取引の基準金利としてLIBORが使われており、その関連する資産規模は世界中で360兆ドル(約2京8,000兆円)にも上ると推計されています。世界のGDP(国内総生産)を合わせても69兆ドルに過ぎないのですから、LIBORの影響力がどれほど大きいか分かるでしょう。

LIBORの算出にあたっては、ドルや円、ユーロなど10種類の通貨と15種類の借入期間ごとに指定された6~18の主要銀行が、ロンドン時間の午前11時時点で「まとまった金額を借りられると考える金利水準」を英国銀行協会に申告します。同協会は提示された複数の金利から、原則として上位と下位の4分の1ずつを除外し、残った金利の平均値をLIBORとして採用します。

各行が提示する金利水準は本来、その時点における世界の経済・金融情勢や各行の財務・信用状況などに応じた「適切なもの」となるはずです。しかし、あくまでも自己申告である以上、各行の金利の決め方はブラックボックスであり、自らの都合に合わせて申告金利を上げ下げしたり、複数の銀行が談合のような形でLIBORを一定の水準に誘導することは可能です

実際にバークレイズなど複数の銀行がデリバティブで利益を上げるために、結託してLIBORを実態より高い水準に誘導していた模様です。バークレイズはまた、リーマン・ショック後の金融危機に際して、財務体質が健全で資金調達に余裕があると見せかけるために、申告金利の水準を意図的に引き下げるという操作も行っていました。

一般社会から大きくずれた金融ムラの感覚

それにしても、このところ欧米の大手銀行による不祥事が後を絶ちません。米銀JPモルガン・チェースの巨額損失事件に始まって、英銀HSBCによるマネーロンダリング(資金洗浄)、英銀スタンダード・チャータードによるイランとの不正取引。LIBORの不正操作も含めて、すべてがロンドンの金融街シティで起こったというのは、単なる偶然なのでしょうか。

国際金融発祥の地、シティには「金融人は正直に行動する」といった紳士協定や性善説が根づいています。そのため金融に対する規制は相対的に緩やかであり、それが経済効率性を高めて、シティを世界最大の金融センターとして君臨させる原動力になってきました。

しかし、今後は金融規制強化の流れが加速していくと思われます。緩い規制が金融機関の強欲とモラル低下を招いた、という見方が強まっているからです。一方で、こうした倫理の問題とともに気になる点があります。例えば今回のLIBOR不正操作に関して、一部の市場関係者の間からは、「バークレイズが金融当局に支払った360億円相当の課徴金など取るに足らない」といった声が聞かれます。

瞬時に巨額のマネーを動かす金融人にとっては取るに足らない金額なのかもしれません。しかしながら、その感覚は一般社会とは明らかに大きくずれています。市場という「公器」を担い、マネーの仲介を通じて一般社会にも多大な影響力を持つ金融機関の感覚が、公から大きくずれているところにこそ、問題の本質があるのかもしれません。

いわゆる「金融ムラ」に特有の金銭感覚や論理、特権意識を変えていくことが、いま規制強化以上に求められている気がします。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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