1. いま聞きたいQ&A
Q

中国経済の現状と課題について教えてください。(後編)

実体経済の弱さが株価上昇を促すという皮肉

中国の主要な株価指標である上海総合指数は今年(2015年)5月22日に、7年3カ月ぶりの高値となる4657.596を付けました。年初からは50%強、過去1年間では2倍以上という急激な上昇ぶりです。

ただし、前回も紹介したように中国では現在、経済成長や企業業績の減速傾向が続いており、株価上昇が実体経済を反映しているとは言い難いのが実情です。景気悪化によって魅力が低下した不動産や理財商品から投資マネーが株式へシフトしてきたり、中国人民銀行が追加の金融緩和に踏み切るとの期待から株式が買われるなど、実体経済の弱さが皮肉にも株価上昇を促す格好となっています。

こうしたバブルとも呼べそうな状況は、中国における投資家の未成熟ぶりと無縁ではないでしょう。中国では年金制度が整備されておらず、機関投資家が育っていないほか、外国人による取引も長く規制されてきたため、株式売買の8割を個人投資家が占めています。中国の個人投資家は一般に企業業績や財務内容への関心が薄く、相場の流れに追随する「相場追いかけ型」の投資をしがちといわれます。

日米欧などの先進国とは異なり、中国では個人が自由に海外の株式や債券を買うことができません。そのため、個人投資家の余剰資金が国内で値上がりの見込める分野に集中して、投機色が強まりやすいという特徴もあります。07年には株式バブルが発生し、上海総合指数は6124まで上昇した後、08年にかけて2000を割り込むという急落を経験しました。

その教訓から中国政府は加熱する株式ブームに危機感を強めています。中国証券業協会などは5月17日、投資基金会社や証券会社の資産運用部門などを対象に「貸株業務を認める」と発表しました。この規制緩和によって株式の空売りが容易になるため、急上昇を続けてきた株式相場には下押し圧力として働きます。

ただ、それも所詮は対症療法にすぎません。個人投資家の熱を冷ますこと以上に大切なのは、実体経済と株式相場の“乖離(かいり)”をいち早く解消することでしょう

製造強国への転換か、サービス産業の育成か

中国政府は実体経済の立て直しに向けて、経済や企業の新しい成長モデルを模索しています。李克強首相は今年3月の全国人民代表大会(全人代)で「製造大国から製造強国に転換する」と訴えました。それを受けて政府は5月19日、製造業の高度化を目指す今後10年の行動計画「中国製造2025」を発表しています。25年までに労働集約型の単純なモノづくりから脱して生産効率を高め、先進国並みに高付加価値の製品を生み出せる製造業へと転換を図るのが目標です。

中国の製造現場では人件費が過去5年で約2倍に上昇しました。アジアなど他の新興国による追い上げもあり、従来の製造業モデルで世界的な優位性を保つことはもはや困難といえます。国内市場で中国企業の劣勢が目立つのも気がかりです。中国の自動車市場では新車販売台数が世界の4分の1という圧倒的なシェアを誇りますが、例えば乗用車の販売において国内ブランドが占めるシェアは4割にも届いていません。

これらの課題を克服するため、今回の計画では情報技術やロボット、省エネ・新エネ車、バイオなど10分野を重点産業に指定し、金融支援や税制面の優遇も検討する方針です。

製造業中心の経済では10%近い成長を続けないと膨大な数の雇用を維持することが難しいため、最終的にはサービス業を中心とした経済への大転換が必要になる、と指摘する専門家もいます。習近平国家主席は経済成長の原動力を外需から内需へ、投資から消費へ移行させる姿勢を打ち出しており、その観点から見てもサービス産業へのシフトは中国経済にとって大きな意味をもつと考えられます。

質の高いサービス産業を育成するためには、海外企業による投資や参入が不可欠です。必然的に非効率な国有企業の再編や淘汰が求められてきますが、それは一方で雇用情勢の先行き不安という新たな懸念材料につながります。

そもそも消費市場の成長には時間がかかるため、中国国内の購買力は向上しているものの、景気全体をけん引するには至っていないのが現状です。中国人民銀行は昨年11月から今年5月にかけて3回の金融緩和を相次いで実施し、中国政府はいまだに鉄道などのインフラ整備を重視しています。これらは裏を返せば、中国が景気の下支え役として公共投資や生産の底上げに期待せざるを得ないことの表れです。

いわゆる時間稼ぎの政策で景気や雇用の安定化を図りながら、構造改革の具体的な手段やタイミングを探る――。何やら我が国の風景と似ていますが、人口も経済規模も、さらには金融市場のゆがみや政財界の既得権益も格段に大きい中国のこと、実現の困難さは日本の比ではないでしょう。領有権問題などで外国ともめている暇はないと思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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