1. いま聞きたいQ&A
Q

中国経済の現状と課題について教えてください。(前編)

構造改革と安定成長の両立を目指す「ニューノーマル」

中国経済に関して、最近よく耳にするのが「ニューノーマル(新常態)」という言葉です。これは年率2ケタの伸びが続くような高速成長ではなく、ある程度の成長鈍化を容認しながら、構造改革を通じて持続可能な安定成長を目指すという考え方。中国の習近平国家主席が2014年5月、地方視察に際して公言したものです。

実際に中国では14年の実質GDP(国内総生産)成長率が7.4%と、13年より0.3ポイント低下して24年ぶりの低水準となりました。今年(15年)に入っても1~3月期の成長率が7.0%と、四半期ベースで6年ぶりの低水準となっています。今年3月に開催された中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)では、李克強首相が15年の経済成長率目標を3年ぶりに下げ、14年の目標より0.5ポイント低い「7%前後」にする方針を表明しています

過去30年近くにわたり、中国は低廉かつ豊富な労働力と土地を背景に海外からの直接投資をふんだんに受け入れ、製造業を中心とする生産・輸出主導型の高成長を実現してきました。しかし、08年のリーマン・ショックと金融危機をきっかけに世界経済が減速に転じると、そうした成長モデルは行き詰まりを見せ、人件費の上昇などによるコストアップも生産の足かせとなっていきます。

リーマン・ショック後に中国政府は4兆元(約76兆円)に上る景気対策を打ち出しましたが、不動産投資が過熱し、企業が需要を上回る生産能力の増強に走るなど、大きな副作用を伴うものでした。結果として中国では現在、住宅在庫の積み上がりによって不動産市況が低迷し、鉄鋼や非鉄金属など供給過剰問題を抱える製造業が生産低迷にあえいでいます。

ニューノーマルという成長鈍化は中長期的な視点で見れば、中国が従来のような投資に依存した第2次産業中心の経済から、サービスや消費が主役となる第3次産業中心の経済へ質的転換を図るプロセスということができます。一方で短期的な視点で見ると、4兆元対策の後遺症あるいは後始末という側面も否定できません。いずれにしても中国が構造改革と安定成長の両立という非常に困難な道のりへ、いや応なしに踏み出さざるを得なくなったことは確かでしょう。

銀行金利の完全自由化と安全網整備への取り組み

経済の効率を高める構造改革の具体策として、李首相は金利の自由化や国有企業改革、新産業育成などを挙げています

中国人民銀行(中央銀行)は13年6月に銀行の貸出金利を自由化したのに続いて、預金金利も15年内には自由化する計画です。中国では銀行システムを保護するために、長年にわたって預金金利の上限規制を採用してきました。すなわち預金金利が意図的に低く抑えられてきたわけで、それが国民の大きな不満を呼び、理財商品に代表される「影の銀行」が膨張する主因になったといわれています。

銀行金利の自由化が完了して、貸出金利と預金金利の両面で銀行間の本格的な競争が始まると、各銀行は利ザヤを稼ぐための工夫を迫られることになります。中国ではこれまで銀行の貸出先が貸し倒れリスクの少ない国有企業に偏りがちでしたが、今後は中小のハイテク・ベンチャー企業やサービス産業など新たな成長分野にも資金が回っていく可能性が高まります

その半面、銀行の収益力は大きく低下するため、不良債権処理に必要な原資が不足したり、経営破綻に陥るケースが増えることも懸念されます。中国は今年5月1日から銀行の預金保険制度を導入し、預金金利の自由化に向けた安全網整備に乗り出しました。各銀行に健全経営を促すため、信用力が高い銀行ほど負担する預金保険料率が低くなる仕組みとなっています。

信用力が厳しく問われるようになるのは国有企業も同じです。今年4月21日に、変圧器メーカー大手で国有企業の保定天威集団が社債の利払いができなかったことを発表しました。中国国内の社債がデフォルト(債務不履行)に陥るのはこれで3例目ですが、国有企業としては初めての事態です。李首相は金融システム危機を起こさないという前提ながら、「個別の案件は市場の原則に基づき処理する」と表明しており、今回のデフォルトも共産党指導部の意向に沿った動きとみられます。

中国の国有企業はこれまで収益力が低くても政府の支援を受けることで高い信用力を維持し、民間企業に比べて低利で資金を調達することが可能でした。そうした特権がなくなることは市場規律の確立につながりますが、一方で政府による市場原理重視の方針を受けて、中国ではこのところ社債の大幅格下げが相次いでいます。

景気の減速感が強まる中で国有企業を中心に企業の資金調達コストが上昇すると、経済成長のさらなる下押し圧力になるため、中国政府は慎重な政策運営を求められることになります。追加金融緩和などへの期待から上海株が大きく値上がりするなど、中国の金融市場では新たなゆがみも目立つようになってきました。

次回はこうした株式市場の動向や新産業育成への歩みを中心に、引き続き中国が取り組む構造改革と安定成長の両立について見ていきたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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