1929年、豪華客船時代の幕開けとともに制定されたファンネルマーク。社旗と同様、2本の線は創立時の三菱と共同運輸の合併を表し、その線が左右に横断しているのは地球横断という創立時の夢を表している
1990年、大型客船クリスタルハーモニーの就航によって、日本郵船の航路に30年ぶりの客船が戻ってきた。クルーズシップのランク付けでは世界的な権威といわれるベルリッツのガイドブックによって、最高位のファイブスター・プラスを与えられた豪華客船だが、現在の船旅は完全にレジャーだ。日本郵船歴史資料館館長代理の金澤氏の言葉によると、以前と決定的に違うのは、今の船旅には別れや再会の哀歓がないことだという。今、日本と海外の間に移動時間以上の距離は感じられないが、船旅華やかなりし昭和初期、外国は日本からまだはるかに遠い場所だったのだ。こうした日本の近代国家としての発展に、一企業として重大な役割を果たしてきたのが日本郵船である。その歴史は、日本が開国し明治となって間もない頃に始まる。日本はまだ、誰も名を知らぬ東の小さな島に過ぎなかった。