1946年2月に、ENIACと名付けられた世界初のコンピュータが完成した。このマシンにはプログラムが内蔵されていなかったが、コンピュータが進化するにつれ、演算素子やメモリコアなど、フェライトの応用範囲はどんどん拡大し、東京電気化学工業もこの分野へ進出していった。
IBM2314型対応磁気ヘッド(1970年)
なかでもとりわけ重要な部品が磁気ヘッドである。当時、磁気ドラムなどの外部記憶装置用ヘッドには、主にパーマロイなどの金属磁性材料が使われていたが、記録密度が高まり、高速化して周波数も高くなるにつれてパーマロイでは対応しきれなくなり、フェライトを使うことが検討され始めた。こうして 1962年4月、フェライトコアを厚さ0.5ミリにスライスした舟形の磁気ヘッドが発売された。これを端緒として、磁気ヘッドの高密度化の要求はさらに加速していった。この要求に応えるためには磁気ヘッドのコア(磁心)のギャップ(隙間)をミクロン単位(1ミリメートルの1000分の1)の狭さにする必要があった。
この微細なギャップを実現できるのはガラス熔着の磁気ヘッドである。1968年にIBM2314型対応ヘッドの発注があった時には2.7ミクロンのギャップが求められ、手探りで技術を開発しながら初代のガラス熔着磁気ヘッドを完成。試行錯誤を重ねながら製品を開発しつづけるうち、フェライトヘッドの市場は東京電気化学工業の独壇場となっていった。
現在では、TDKのハードディスクドライブ用磁気ヘッドは世界シェアトップとなり、TDKの売り上げの約40%を占める大きな柱へと成長を遂げている。
フェライトという未知の素材からすべては始まった。フェライトの可能性とともにTDKの可能性は広がり、フェライトとともにさまざまな事業分野へ進出していった。
その歩みをなぞるかのように、TDKは「素材技術」「プロセス技術(素材を加工し製品に仕上げる生産技術)」「評価シミュレーション技術」をコア技術として蓄積し、ものづくりの基盤としている。現在はこの基盤のうえに「情報家電」「高速・大容量ネットワーク」「カーエレクトロニクス」という3つの成長分野を置き、そこに経営資源を集中させて事業を展開している。
セラミックの磁性体、フェライト。東京工業大学の加藤与五郎博士と武井武博士が発明した日本オリジナルの素材。
写真は1930年頃のもので、この頃は用途も実用化の可能性も未知数だったが、これがTDKのすべての始まりとなった。
さて、TDKは何を創ってきたか。さまざまな分野でさまざまな部品を作ってきたが、結局、TDKが創ってきたものは未来である。
フェライト以外は何もなかった。無限の未来だけがそこにあったといえるだろう。そう考えると、未来という言葉がTDKほど似合う企業はない。
今後トレンドがどのように変化しようと、フェライトで培ったコア技術がぶれることはないだろう。未来に対する強さこそ、TDKの強みである。