テープレコーダーの原型は1930年代に登場していたが、音質が改良され実用に堪えられるようになったのは第2次大戦中のことである。
その後、1947年にアメリカの3M社が磁気録音テープを発売し、放送用や取材用に使われるようになってきた。日本では1950年に東京通信工業(現・ソニー(株))が発売したテープレコーダーが最初である。
NHKの放送用テープとして認められ200巻を受注(1957年)
フェライトコアやコンデンサなどの部品以外に柱となる製品がほしいと思っていた東京電気化学工業は、1951年8月、磁気テープの開発に着手した。磁気テープは磁性材料の応用製品であるとはいえ、その磁性材料を塗布するベース材、塗布する技術など、東京電気化学工業にとっては未知の技術への挑戦である。試行錯誤の末、1953年10月に最初の製品を発売したが、磁化の大きさを表す保磁力がまだまだ小さく、本格的に営業活動を行うには至らなかった。
その後、磁性材料に改良を重ね、NHKが放送用に使用していた 3M社の製品と同等の品質が得られるようになり、正式にNHKの放送用テープとして認められて、1957年、200巻を受注した。
シンクロカセット(1966年)
1960年代に入るとオランダのフィリップス社がコンパクトカセット方式を開発し、その特許の利用を無償とした。いわゆるカセットテープの登場である。
東京電気化学工業は1966年3月にフィリップス社と契約を交わし、同年6月、国産第1号のカセットテープを松下電器産業にOEM(相手先ブランドによる生産)供給した。しかしこの頃のカセットテープは記録できる信号量が少なく、音楽用には使えなかった。東京電気化学工業はOEM販売を主体として事業を展開していたが、自社ブランドのテープとして、音楽用に使えるカセットテープの開発にとりかかった。
やがて、世界最高の保磁力を持つ戸田工業(株)の針状粒子材料を使った音楽用カセットテープが完成した。TDKブランドを冠し「SD(スーパーダイナミック)カセット」と名付けられたこのカセットテープは、1968年9月、ニューヨークで行われたCE(コンシューマ・エレクトロニクス)ショウに出品され、圧倒的な拍手で迎えられた。
そして翌1969年3月に国内で発売が開始され、デビューを果たしたのである。カセットテープは部品メーカーである東京電気化学工業が初めて手がけたエンドユーザー向けの商品であった。東京電気化学工業は、最初に製品化したフェライトコアからTDKブランドを使用していたが、SDカセットの爆発的なヒットによってTDKの名は一般消費者の間に一気に広まっていった。このため、1983年3月1日、創立50周年を前にして東京電気化学工業はTDK(株)に社名を変更することとなった。