1. 先駆者たちの大地

先駆者たちの大地

三菱商事株式会社 創業者 岩崎彌太郎

1969年 変革の最初の遺伝子

藤野忠次郎社長

藤野忠次郎社長
(1966~1974年在任)

1969年12月。三菱商事社長、藤野忠次郎は、契約書にサインする手の震えを抑えることができなかった。失敗すれば三菱商事が3つ潰れるとさえいわれた巨大プロジェクト「ブルネイLNG開発プロジェクト」の、これが始まりであった。
石油メジャー、ロイヤル・ダッチ・シェルは、三菱商事に対しバイヤーとしてではなく、投資パートナーとして液化・輸送会社への出資を打診していた。商社の海外大型投資は、まだほとんど例のない時代だった。三菱商事が見積もった投資額は約1億から1億5,000万ドル。社運をかけることになりかねないこのプロジェクトを前に、プロジェクトチームは研究に研究を重ねた。結果的に、三菱商事は、1億2,500万ドル(当時の為替レートで約450億円)の出資を決定。シェルと三菱商事が各45%、ブルネイ政府が10%を出資して、合弁会社「ブルネイLNG」は設立された。当時の三菱商事の資本金をはるかに上回る巨額投資であった。ブルネイで産出された天然ガスは液化されてLNG(液化天然ガス)となり、翌年から日本への供給が開始された。今日では、資源を持たない日本の5割近くのLNGを三菱商事が供給するに至っている。

ブルネイ産LNG(液化天然ガス)の輸入積み込み。

ブルネイ産LNG(液化天然ガス)の輸入積み込み。
1969年のブルネイLNG開発プロジェクトから、三菱商事の改革への胎動が始まった。

この三菱商事始まって以来の巨大プロジェクトの成功は、事業規模の大きさ以上に、三菱商事にとって大きな意味を持っていた。三菱商事が「商社冬の時代」「商社不要論」が叫ばれた風雪に耐え、やがて大きな変革を遂げていくための最初の遺伝子を、--まるで植物の種子が成長の因子のすべてをそのなかに含んでいるかのように--すでにブルネイLNG開発プロジェクトは、そのなかに宿していたのである。

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IRマガジン2001年5-6月号 Vol.49 野村インベスター・リレーションズ

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