1. いま聞きたいQ&A
Q

欧州と日本の「マイナス金利」について教えてください。

ECB(欧州中央銀行)に余剰資金を預けると手数料を取られる

欧州と日本の債券市場で話題を呼んだ「マイナス金利」は、いずれも中央銀行が関係している点では同じですが、両者の持つ意味合いは大きく異なります。

欧州のマイナス金利は、ECBが今年(2014年)6月5日の定例理事会で導入を決めた「マイナス金利政策」に端を発しています。これはユーロ圏の民間銀行が余剰資金をECBに預け入れる際の金利をマイナスにするというもので、主要先進国・地域の中央銀行としては初の試みです。導入当初の利率はマイナス0.1%に設定されましたが、その後、9月4日の定例理事会でマイナス0.2%まで引き下げられています。

ユーロ圏で景気悪化やデフレへの懸念が高まるなか、ECBは政策金利を過去最低の0.05%まで引き下げたほか、銀行の融資債権を証券化した資産担保証券(ABS)の買い入れや、企業向け融資を増やす銀行への低利資金の供給など、いわゆる包括的な金融緩和策を打ち出しています。マイナス金利政策もその一環で、ECBに余剰資金を預けるといわば手数料を取られるという状況をつくり出すことにより、銀行の資金を企業などへの貸し出しに向かわせる狙いがあります。

ただし、欧州では企業や個人の資金需要が乏しい状態が続いており、銀行が余剰資金を抱えたからといって、それが必ずしも融資に回るとは限りません。ECBが6月11日にマイナス金利政策を実施して以降、ドイツやフランス、オランダなどユーロ圏の債券市場では1カ月物や3カ月物など短期国債の利回りがマイナスに転じました。銀行がECBの預金から引き出した資金を短期国債へ大量に移し、金利低下が急速に進んだからです。ドイツでは9月に入って2年物国債でも利回りが一時マイナスとなっており、金利低下が長めの国債にも広がりつつあります。

欧州の金融機関は今秋にストレステスト(健全性審査)の結果公表を控えているほか、世界的な金融規制強化への対応も迫られており、銀行が現段階であえてリスクにつながる企業への融資を増やすことは考えにくいのが実情です。また、銀行としては価格が変動する債券に投資しておけば、その後のさらなる金利低下によって値上がり益も狙えるため、「ECBに預けたままで元本が目減りするよりは有利」という判断も働いているもようです。

日銀が初めてマイナス金利で短期国債を買い入れ

ECBによるマイナス金利政策の影響は日本にも及んでいます。7月10日に新発3カ月物短期国債の利回りが証券会社などの業者間取引で一時マイナス0.002%と、初めてマイナスをつけました。欧州の銀行などの資金がより高い金利を求めて日本の債券市場に流入し、短期国債の人気が過熱したことが主因とみられています

しかしながら、日本で本格的にマイナス金利が注目を浴びたのは9月に入ってからのことでした。9月9日に日銀が新発3カ月物短期国債を市場から初めてマイナス金利で買い入れたのです。9日を含めて日銀は9月の1カ月間に合計4回、短期国債の買い入れオペ(公開市場操作)を行いましたが、そのすべてでマイナス金利が生じています。

欧州からの資金流入に加えて、9月期末を目前に控えた日本の銀行などが低リスクの短期国債を積み増す需要も強まり、日本の短期金融市場ではもともと金利の低下傾向が高まっていました。そこへ日銀がマイナス金利での買い入れを実施したことにより、銀行など機関投資家の間ではいわゆる「買い安心感」が広がります。市場に流通しているマイナス利回りの短期国債を買っても、日銀にそれ以上の価格で買い取ってもらえばいい、というわけです。

9月10日には新発6カ月物で、17日には新発1年物でも初めてマイナス金利での取引が成立し、日本の債券市場ではもはやマイナス金利は珍しいものではなくなってきました。市場関係者の間では、日銀による短期国債の積極的な買い入れが続くかぎり、今後も四半期末ごとに短期的な需要が高まり、マイナス金利に振れやすい状況が続くという見方が多くなっています。

日銀がマイナス金利で短期国債を買い入れると、買い入れ額が償還額を上回ることとなり、満期まで保有すると日銀には損失が発生します。損失覚悟で市場にマネーを供給するという、中央銀行としては極めて異例の措置に日銀が踏み切った背景には、物価目標の達成や景気の底上げに向けて金融緩和を徹底するという姿勢を市場に示す狙いがあるといわれています

その意味では、欧州におけるマイナス金利の広がりがECBの本来的な目的とは別のところで進んだのに対して、日本におけるマイナス金利の常態化は日銀のなかば確信犯的な意図によるものと見ることができるでしょう。しかし、欧州も日本も債券市場が異常な状態にあることには変わりありません。それが通常の状態に戻るときにどのような影響がもたらされるのか、大いに懸念されるところですが、ここまですべてが異次元になってしまうと分からないというのが市場の本音かもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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