1. 金融そもそも講座

第81回「ミャンマーの可能性と課題 PART1」多様な気候 / 貧しいが豊か

2013年のマーケットは昨年末に予想した通り、興味深い展開で始まっている。年末年始に10日間ほどかけて、今注目の国ミャンマーを回ってきたので、複数回にわたり「ミャンマー特集」でこのコーナーの2013年を始めようと思う。筆者のミャンマー行きは、昨年の秋にオバマ大統領が訪問するより前に計画していた。その意味では「世界の注目が集まってきた」という印象もある。驚きの毎日だったミャンマーの可能性と課題とは何か?

ヤンゴン、チャイントン、インレー、バガン

筆者が訪れた都市名は、皆さんにはあまりなじみがないと思う。「ミャンマー」という国名もそうだろう。元々は「ビルマ」という名前の国だった。日本では小説や映画の『ビルマの竪琴』が有名だから、「あの国か!」と思い当たる人もいるかもしれない。ビルマからミャンマーに国名を変えたのは1989年で比較的、新しい。

しかし非民主的な軍事政権のため、米国などから「国名変更も認めない」という状況に置かれていた。それが、現テイン・セイン政権の民主化政策、中国離れ政策でミャンマーという国名が世界的に認知され、かつ「アジア最後のフロンティア」として注目され始めた。

実際にその国で過ごした印象として強く残ったのは、すさまじい数の観光客が訪れていることだ。それもビジネスマンではなく、有名リゾートを楽しみ尽くしたような人や、すでに世界各地を訪れているであろう欧米の裕福な旅慣れた高齢者たちだ。「発展しつつある国」ということで、ビジネスマンが圧倒的に多いだろうと思ったら大間違いだ。

活気もある。バンコクからヤンゴン(旧首都)に入ったのだが、飛行機は行きも帰りも満席。ミャンマー国内の主要都市を国内航空会社が網の目のように路線を張っているが、その飛行機も常に混んでいて、ミャンマー国民の足になっていた。その点からすれば「遅れた途上国」ではない。

「もうすでに開発は始まっているし、世界中から人が流れ込み始めている」というのが偽らざる印象なのだ。年末年始以外はビジネスマンも多いだろう。日本人が訪れるのは古都と呼ばれるバガン(パゴダ=寺院が2000もあるといわれる)が多いが、実は中部のインレー湖などはリゾート開発が見事に進み、そこに欧米の観光客が押し寄せていた。こうしたリゾートには日本人を含めアジア人はほとんど見かけなかった。

多様な気候

気候・風土も日本人が抱く画一的なイメージとは全く違っていた。ヤンゴンなどは冬でも日中は30度を軽く超える。しかしそれより北のへーホーという空港からそれほど遠くない中部のインレー湖は、高地で湖畔ということもあるので、朝晩は暖房を入れなければならないほど寒かった。ホテルのハウスキーパーは我々が食事をしている間にベッドの中に湯たんぽを入れていてくれた。日中も湖面を渡る風が気持ち良く、日差しは強いので日焼けするが、日陰に入れば涼しい。ミャンマーは今が乾期で観光には最適の時期だ。それを良く知っている欧米の観光客が旅行会社の進めもあって押し寄せているのだろう。

統計を少し紹介しよう。直近の統計で今一番多くミャンマーを訪れているのはドイツ人だそうだ。ドイツ人はタイにも多いが、その隣のミャンマーが今はブームになっているらしい。2位がイタリア、そして3位がフランスだそうだ。確かにどこに行ってもそういう感じの観光客がいっぱいいた。インレー湖でもバガンでも、とてもインターナショナルなのだ。インレー湖上の織物工場に隣接してできている土産物屋さんでイタリアの女性が「10ドルにしてよ」と値切っているかと思えば、首長族(本当に首が長くなっている)の女性を見て笑う観光客に怒りをあらわにする米国人、水上レストランではドイツ語やイタリア語が聞こえ、ホテルに帰ればスペイン人が静かな声で話している、という感じだ。

私たちのガイドをしてくれたウィーさんが「オバマ大統領も来て、米国人も増えつつある」と語っていた。それに対してアジア人は影が薄い。隣国である中国がやっと5位に入り、7位が韓国、そして9位が日本だという。確かに世界中の観光地で必ず出会う日本人の団体は見かけなかった。見かけたのは「バンコクから来ました」「福岡から来ました」といった、どちらかといえば個人仕様の旅が好きな人たちだった。日本人が比較的少なかったのは、年末年始という事情もあるかもしれない。

貧しいが豊か

ミャンマーは統計を見ると“まだまだの国”の印象が強い。国土の広さは日本の1.8倍に当たる68万平方キロメートルで人口は日本の半分の6200万人ちょっと。国民一人当たりのGDPは直近のIMF統計(2010年)では702ドルとなっている。経済発展で5000ドルを大きく超えてきた中国に比べても、また隣国であるタイの2011年の5394ドル(外務省統計)に比べても、大きく出遅れた国である。ちなみに日本の国民一人当たりGDPは円相場次第だが3万5000ドルには達している。そういう意味では「貧しい国」だ。

しかし行ってみると「ここは豊かな国だ」と思えることがいっぱいある。まず田圃が日本のそれのようにきれいに整備され、飛行機の上から見ると「国土がよく利用されている」と思う。それから収穫できる米は多品種で、町にある米屋には多様な米が置いてある。野菜や果物も豊かだ。ヤンゴンのスーパーものぞいたが、実にモノが豊富だ。長らく軍事政権のため国際的な経済制裁を受けてきたので今は貧しい状態だが、「開放が進んで外資が入ってくれば、すごい成長力を発揮するのではないか」と思った。

もう一つ意外だった点を挙げれば、木々が、森が豊かだということだ。アジアの他国、例えば中国の中部から北部などは、山に大きな木がほとんどない。しかしミャンマーは違い、まるで日本のように“トトロの森”がいっぱいある。田圃が多いことと合わせて、国土は景観的に日本に近い。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

バックナンバー2013年へ戻る

目次へ戻る