大英科学博物館に常設展示されたG型自動織機
大英科学博物館に常設展示されたG型自動織機
1857年に創設された大英科学博物館は、科学・技術の啓蒙を基本理念とした世界有数の科学博物館である。2000年6月27日、この博物館に「現代社会の形成」というギャラリーがオープンし、エリザベス女王を迎えてオープニング・セレモニーが行われた。これは産業革命以降、250年の文化・技術史に焦点をあて、人類の工業化・産業の歴史において、世界初の偉業を成し遂げた技術を中心に展示するギャラリーで、スティーブンソンの蒸気機関車ロケット号やアポロ10号の司令船などが展示されている。
そのなかに、唯一動態展示される織機こそ、豊田自動織機の始祖、豊田佐吉翁が発明し、完成させた世界最初で最高性能の完全なる自動織機である。超高速でオートマチックに布を織るようにしか見えないこの機械の、どこがそれほど革新的だったのか。その答えに、トヨタグループの今日の姿に至る最大の要因が潜んでいる。
今や世界に冠たるトヨタグループ、その成長の原点をたどると、始祖、豊田佐吉翁の「自働」の考え方に行き着く。その生涯で、実に119件もの特許を取得し、それぞれ世界20カ国で特許を取得。1985年には「日本の偉大なる発明者10人」に選ばれた佐吉翁。すべての動力化への発念は、国家のため、社会のため、人のためにあり、そして人の知恵をもって無駄を排除し、絶えず動き続ける「自働」の思想は、ものづくりの基軸として、今なお受け継がれ続けているのである。
1935年、佐吉翁の六回忌にまとめられ発表された「豊田綱領」は、全トヨタグループの全経営者、全従業員のよりどころとなってきた。その精神は時代の変転にもゆがめられることなく、言葉は古くともその内容はいつの日も新しく、発展を願う人々の間で受け継がれ、今日の繁栄と団結の基礎となっているのだ。
一、上下一致、至誠業務に服し産業報国の実を挙ぐべし
一、研究と創造に心を致し常に時流に先んずべし
一、華美を戒め質実剛健たるべし
一、温情友愛の精神を発揮し家庭的美風を作興すべし
一、神仏を尊崇し報恩感謝の生活を為すべし
(「豊田綱領」豊田自動織機40年史より)
企業は人なり、である。そして、豊田自動織機自身の人格ともいうべき企業文化は、こうした思想を今に伝えている。佐吉翁を支柱とする家族のような血の通った企業であることが、この時代に好調であり続ける鍵なのかもしれない。