1. 金融そもそも講座

第182回 マーケットに見えるグレートローテーション(大転換)のきざし
鮮明になってきた、FRBの利上げ姿勢

今回は、今起きているであろうグレートローテーションを誘発している米国の中央銀行の動きを中心に追う。その姿勢は、慎重だが確実な利上げを継続というもので、この原稿を書いている3月初め現在、次回のFOMC(米連邦公開市場委員会、3月14~15日に開催)ではかなりの確率で利上げになるとの見方が強い。トランプ政権の動向もあるが、「株式よこんにちは」の動きは加速しているようにも見える。

もっとも、前回の原稿を書いた段階からかなり見えてきたものもある。それは、やはり2.5%の利回りは投資家にとっては魅力的、と思える現象だ。だから「債券よさようなら」とも言い切れない。グレートローテーションという言葉はあっても、その現れ方は毎回同じではない。トランプ・ファクターとの絡みもある。その背景をもう少し掘り下げてみる。

強まる「株式よこんにちは」

前回は、ニューヨークの株価5連騰の段階で書いたものだが、その後連騰はダウ工業株平均で12日間続いた。まさに、株式よこんにちはの2週間余(営業日ベース)だった。しかしその連騰も2月28日にいったん途切れた。同日夜のプライムタイム(国民が一番テレビを見る夜の時間帯)に行われるトランプ大統領の米議会上下両院の合同本会議での施政方針演説を控えて、また月末要因もあって、ダウなど株価指数が小幅な下げに終わったからだ。しかし3月はまた大幅な上げで始まった。1日に3指数(ダウに加えてSP500とNASDAQ)そろっての大幅高となったのだ。

そして28日の演説でトランプ大統領は、依然として具体策に欠けるものの、「法人税率を引き下げ、中間層に向けに大規模な減税を実施する」「1兆ドルのインフラ投資を議会に求める」との姿勢を鮮明にした。その他、規制緩和に関して「一つの新しい規制を導入したら、古い規制二つの撤廃を行う」という大統領令を引き合いに、「より自由な経済活動を強く支持する」という考えを改めて強調した。

さらにこの演説でトランプ大統領は、今まで主張した厳しい移民政策の一大方針転換も示唆した。世界各国で広く採用されている“能力のある移民には門戸を開く制度”への転換だ。これは今までの、移民は基本的に拒否という姿勢からは大転換だし、IT業界を初めとした米国産業界の意向にも沿うものだ。

米国経済は、優秀な移民、働ける移民なしには稼働しない。その意味で今までのトランプ政権の反移民姿勢は、大きな懸念材料だった。しかしどうやらトランプ政権は「国内に滞在する不法移民に対し就労を合法化し、納税を義務づける包括的な移民制度改革法の制定を検討している」(CNNなどが報道)ようだ。

おそらく「新たな移民」については、米国経済に役立つ、米国人の雇用を奪わない、経済的に自立できるという原則で認める事になるのだろう。「イランなど7カ国のイスラム教国からの全移民の禁止」といった初期の乱暴な反移民政策からは大きな転換だ。トランプ大統領は、現実路線にかじを切った。

利上げが接近

政権は徐々に閣僚がそろい、トランプ大統領も政策の大枠を示した。こうした中で鮮明になってきたのはFRB(米連邦準備理事会)の、慎重だが確実な利上げ姿勢だ。3月中旬のFOMCを控えて「利上げ示唆発言」がFRB高官から連続して出ている。例えばニューヨーク連銀のダドリー総裁はテレビ番組で、「金融引き締めの必要性はかなり切迫している」と指摘した。同総裁は前回1月のFOMC議事録で使われた「利上げ切迫(fairly soon)」という単語を改めて使ってみせた。あえて同じ単語を使ったところがポイントだ。マーケットに利上げ接近を強く印象づけた。サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁も、2月末の講演で「3月の会合で利上げは極めて真剣に考慮されるだろう」と述べていたし、ダラス連銀のカプラン総裁も28日のテレビ番組で「早めに踏み切るべきだ」と述べた。

今回の原稿では3月初めに予定されているブレイナード理事、イエレン議長、フィッシャー副議長などの講演内容までを入れることはできないが、FRBが利上げの地ならしをしているとの見方は強い。先物市場から算出する投資家の3月の利上げ予測は、60%を越えてきている。直前までは30%台だった。トランプ大統領の「議会への1兆ドルのインフラ投資要請」もあって、利上げの確度は上がった。

その利上げ姿勢鮮明化の中でも、株価が大きく買われている。ニューヨークの株価は3月1日には、大幅な上昇を見せた。ダウは300ドル以上上昇して、引値は2万1000ドルの大台に乗せた。むろん前日の小幅反落を忘れさせるような大きな上げだった。SP500やNASDAQも大幅な上げを記録した。つまりニューヨーク株はこの時点で14営業日のうち13日で力強い上げを記録したことになる。下げたのはたった一日だけ。それも実に小幅な調整に過ぎなかった。

利上げ観測が強まる中での株式相場の大幅上昇というのは、そうそう見られる現象ではない。前回も書いたように、通常は債券と株式は競合関係にあると思われるからだ。金利上昇を(普段であれば)株式市場は嫌気する。しかし今回は、グレートローテーションという大きな流れがあるからそれが可能だった、と考えることができる。グレートローテーションとは、安全資産からリスク資産への大規模な資金移動が起きることを意味する。その大きな流れがあるからこその、今の株式の上げ相場継続だと思われる。

2.5%の債券は魅力?

しかし一方で見えてきた今回のグレートローテーションの特徴もある。それは債券利回りの上昇が遅いということだ。実は前回の原稿を書いた2週間前と3月1日現在の債券利回りを比べると、今回の方が低い。米10年債の利回りの1日の引けは2.458%で、2月15日の2.494%より下。

この間にいったん、利回りは2.3%割れ寸前まで下げた。その段階では「トランプ政権でインフレ傾向が出てくると見る人には打撃」といった記事もあった。つまり、――たとえトランプ政権の政策があっても、本当に今後の世界はインフレになるのかどうかの確信が持てないマーケットが続いている――ということだ。また、こうとも考えられる。やはり米国の投資家にとっても2.5%の利回りは魅力的ということだ。株価は上げ続けていて、総合利回りで見て、今の株価は買われ過ぎとの意見もある。なので「いったん株式に移していた資金を2.5%の利回りを見て再び債券市場に動かした」という投資家の話も、米国の新聞には載っていた。

今後数年を見据えた大きな流れは、債券よさようならだろう。しかしこれまで2週間の米債券市場の動きを見るなら、節目節目では債券にも魅力があり、資金の一部を置きたいという向きもあるということだ。確かにディスインフレ傾向が続く今の世界で、2.5%の利回りは魅力だ。

相場の世界では一直線には物事は進まない。売り手と買い手が両方いなければマーケットは成立せず、であるが故に相場のチャートはどのような刻みで見ても波を打っている。つまり相場観の対立の中での推移。その意味では債券の売られ方にも波がある。今のニューヨークの株式相場ほどに波もなく上げ続けている方が、珍しい。

筆者の考え方はこうだ。多分FRBの利上げは今後2年ほど続く。年2~3回のペースだ。理事達の予測もそのようになっている。これは過去の米利上げの典型ペースからすると遅い。例えばグリーンスパンが議長だった時代には、毎FOMCで0.25%の利上げを続けた時期もあった。しかし今は、それほど米国経済が強くなく、そしてインフレ懸念も小さい。としたら、株価の上げが先行する中でも債券利回りの上昇は遅行するだろう。つまりFRBの政策による短期金利の上昇の中でも、債券は折に触れて買われる。資金は十分にある。よってイールドカーブは、比較的寝たままになる。果たしてどうか。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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