1. 金融そもそも講座

第181回 マーケットに見えるグレートローテーション(大転換)のきざし

それにしてもニューヨーク証券取引所をはじめとした米国の株の強さが際立っている。この原稿を書いているのは日本時間で2017年2月16日の朝だが、ダウ工業株30種平均、SP500、NASDAQなど日本でも知られている米国市場の代表的な株価指数は、なんと先週の木曜日から5営業日連続してそろい踏みでの高値更新中だ。この間のダウの上げ幅は600ドル弱。2万ドル台でむしろ加速している。新高値を上に上にと追っているのだ。

長くマーケットを見ている人にとっても、こんな現象は珍しい。普通は新高値を付けた後は警戒感が出て、相場は一旦下がったりして様子見するものだ。今のニューヨーク市場の投資家はなぜかそれをしない。むろん銘柄選別は活発だが、全体的に見るとただひたすら株を買っている印象がする。「トランプ効果」は確かにある。しかしそれだけだろうか?

上げに拍車

ニューヨーク市場の株価の少し長いチャート(10年)を見ると面白いことが分かる。リーマンショック時の株価の大幅下落は覚えている人も多いだろう。それがあったのが2008年の秋で、既にそれまでに下げトレンドに入っていた株価はさらに激しく下げ、09年の年初にダウ指数は6600ドル台の底値を記録する。それからは上げ局面だ。その背景は明らかに米国の中央銀行たる連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な金融緩和策だ。むろん米国経済がリーマン危機から回復の足取りを示したことも大きいが、やはりそれは金融相場だったと見るのが妥当だろう。

しかし15年に相場は足踏みする。「もう株価の上昇基調は6年も続いている」「そろそろ上昇相場も終わりではないか」「強気相場が6年も続くのは極めて希有」との見方が強くなる中で、米金融当局も超金融緩和政策からの脱却を狙っていた時期だ。「金利が上がるのなら、今までの相場の前提条件は崩れる」「積極的には株は買えないのではないか」との見方が強まった。15年の年初のニューヨーク・ダウの水準は1万8000ドルをやや下回る程度。しかし年末から16年初にかけて、同指数は1万6000ドル台の前半を記録した。15年末には政策金利であるFF金利が実に久しぶりに0.25%と小幅だが引き上げられた。15年は金融相場が一転して、FRBの政策転換を警戒する相場展開だったといえる。

しかし16年には再び上げ相場に戻り、ドナルド・トランプが大統領に決まった11月からは上げに拍車がかかった。17年2月15日のニューヨーク・ダウの引け値は2万611ドル86セントだ。前日比100ドル超の上げ。とにかく朝目覚めると、またニューヨークの株が上がったと思える日が続いている。疲れを知らない上げ相場と呼ぶこともできる。16年末にもFRBが利上げしたが、ニューヨークの株の上げを止めるものではなかった。

グレートローテーション

直近のニューヨーク株の上昇を考える上で一つ参考になるのは、債券市場の動きだ。常に投資資金の受け入れで株式市場の競合的存在と考えられている。米10年債の利回りの動きを見ると、それまでほぼ一貫して下がってきて16年夏に1.40%を下回るまでになった。それまでは、債券は買っていればもうかった時代だった。しかし次第に様相が違ってくる。大統領選挙が進行する中で徐々に債券は売られて利回りは上昇した。大統領選挙があった11月8日の直前の利回りは1.8%台の半ば。そこからトランプ当選でポンと跳ね上がって2%台に乗り、2月15日の引けは2.494%。一日のレンジを見ると2.467 ~2.520%となっていて一時は2.5%台を付けたことが分かる。米10年債の利回りは、7カ月ほどの間に1%以上、上昇した。つまり、債券相場は下がった。

競合的関係といわれるくらいだから、債券相場が売られているときにニューヨークの株が買われているのは当然のように見える。しかしリーマンショックから現在までの両市場の動きを見ると、両方が買われていた時期が結構ある。―― 金融緩和は基本的には金利体系が下がることを意味する。そして、ディスインフレさらにはデフレ懸念がある時、期待インフレ率が低い時には、期間別で見た金利のカーブ(これをイールドカーブという)が寝てくる、つまり短期金利と長期金利の金利差が縮小する。それを好感して株も買われる ――ということだ。

では今の債券相場が売られて長期金利が上昇し、継続的に株式市場が大幅高になるのはどうしてか。一つ考えられのは、投資資金が債券市場から大きく株式市場に移っているのではないか、ということだ。実際に投資対象別にファンドの米国内での動きを見ると、債券ファンドから株式ファンドへの資金の移動がかなり明確に見られる。投資家が債券市場に資金を入れているのは、「トランプの政策は今までと180度違う」「インフレ期待もある中で、今後債券相場は長く売られる(利回りは上昇する)期間が続くだろう」「株式の方により大きな魅力がある」と判断しているからだと思われる。

安全資産からリスク資産への大規模な資金移動が起きることを「グレートローテーション」と呼ぶ。資金はいつもロテート(rotate 回転)しているが、それが大規模に、時間を伴って起きる現象だ。今起きているのは「債券よさようなら、株式よこんにちは」という動きだ。むろんその逆もある。

株式よ、こんにちは

米10年債の利回り2.5%には魅力は無いのか。日本の債券利回りに比べれば相当高い。しかし米国では債券ファンドからの資金の流出は続いている。つまり米国の多くの投資家は2.5%の利回りに魅力を感じる以前に、「もっと債券相場は売られる。もっと利回りが上がったところで買えばよい」「今は株式市場に資金を移すときだ」と考えていると思われる。

資金の移動が統計的に明らかになるのは数カ月後だが、ニューヨークの株価を見ていると興味深い動きがある。それは株価が押す、つまり下がるとそこが必ず買い場になっていることだ。つまり押し目らしい押し目がない相場展開ということだ。少しでも相場が押したら「そこは買いたい」という人(ファンドや個人投資家)が多くいることが分かる。15日までのニューヨークの全株価指数の5営業日の連続高値更新は、そうした環境故に起きたと考えるのが自然だ。それが「グレート」であればあるほど、長続きする。

仮に今のニューヨーク市場がグレートローテーションを起こしているということになれば、多くの投資家が物価情勢をデフレやディスインフレではなく、むしろインフレと考えているということだろう。少なからぬ投資家は「皆が債券を売り、皆が株式を買っているから」と付和雷同しているとも考えられる。しかし資金を確信を持って動かしている人がいるからこそ、今のような「買い継続」マーケットの空気が生まれる。

重要な事は、そのニューヨークに影響されて日本を初め世界の株式市場が総じて強いということだ。もしかしたら、債券よさようなら、株式よこんにちはとは、世界的な動きなのかもしれない。世界の景気は一時よりは随分と良くなった。一次産品価格も石油を中心に底値は脱した。しかし世界的なインフレ懸念があるかといえば、それはまだだろう。今後の問題だ。

多くの株市況記事では、今の相場をトランプ・ラリーと称している。しかし次回以降に書くが、トランプ政権はまだ体をなしていない。重要閣僚(大統領補佐官)が辞任に追い込まれ、様々なスキャンダルが白日の下にさらされている。政策実現への疑念も残る。今の株式相場の上げを「トランプ故」と位置づけるのはかなり難しい。トランプ登場は相場の上げを加速したことは確かだが、もっと根本的に資金の動きを支配している現象があると思う。今の相場を見ると、それは「グレートローテーション」だと考えるのが自然だ。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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