1. 先駆者たちの大地

先駆者たちの大地

株式会社東芝

2001年~ 現代のマーケットを熱狂させる「機巧(からくり)」

2001年、それまで世界経済の景気を牽引してきたIT産業が、米国のITバブル崩壊により急速に力を失い、ハイテク産業を中心とした世界同時不況の様相を呈する厳しい状況となった。こうした事業環境のもと収益悪化に苦しんだ東芝は、グループ経営の早期強化を図るため、事業の集中と選択による競争力強化、軽量化経営、コーポレート・イニシアティブによる調達コストの低減を柱とした経営施策「01アクションプラン」を策定し、実行に移した。主な施策として汎用DRAM事業からの撤退や、液晶事業およびブラウン管事業での再編を進めたほか、調達コスト削減、資産圧縮を加速して、当初の計画を達成。その後、2003年3月に発表した中期経営計画では、成長が継続することが期待される「デジタルプロダクツ事業」および「電子デバイス事業」、そして安定的な事業機会があると考えられる「社会インフラ事業」の3つを主力事業ドメインと位置付け、これら事業の伸長を図るための体制を整備。それ以降、「成長性と安定性を兼ね備えた高収益の企業グループ」への変革を目指す事業展開が続く。

最新のノートPC「Qosmio」

最新のノートPC「Qosmio」

液晶テレビ「ちょっとタイム[フェイス]」

液晶テレビ「ちょっとタイム[フェイス]」

液晶テレビのCMには松井秀喜選手が起用され、スポーツの激しい動きも美しく再生するAV機能と、大事なシーンを見逃さないワンタッチ録画・再生機能というそれぞれの特徴を訴求している。これまでCMでも技術を前面に押し出す傾向の強かった東芝が人気スポーツ選手を起用するという点に、技術によって「喜び」を提供していこうとする同社の新しい姿勢がうかがえる

2003年度、電子デバイス事業は、NAND型フラッシュメモリの好調を中心とした半導体事業の伸長と液晶事業の改善により大幅に増益を達成、社会インフラ事業も増益となるも、デジタルプロダクツ事業のパソコン(PC)事業では474億円の営業損失を計上する。その後「デジタルプロダクツ事業」の成長戦略の再構築を検討。2004年4月、パソコン事業の収益改善に加え、新たな収益の柱として映像技術とストレージデバイス技術を核とした映像事業の強化策を「映像の東芝」として発表した。戦略商品として、ハードディスク駆動装置(HDD)を内蔵した液晶テレビ「ちょっとタイム[フェイス]LH100シリーズ」を商品化した。 一方、パソコン事業では、同事業の構造改革施策の遂行に加え、差異化商品として2004年8月にノートPC「Qosmio(コスミオ)シリーズ」を発表し、さらに、2005年3月に創業130周年の戦略商品として発売された同シリーズの最上位機種「Qosmio G20」では“QosimoEngine”が一層強化され、東芝独自のRAID機能(*)も加わった。これら独自技術を投入した商品力は、パソコン事業が2004年度、一転して81億円の営業利益へとV時回復を成し遂げる一翼を担った。

これまで東芝は技術力への信奉が強く、ともすれば市場への対応を過小評価しがちな傾向があった。しかしこうした商品では技術そのものよりも、技術を使ってユーザーに新たな喜びを提供することに心が砕かれている。明らかに、田中久重が追い続けた「人を喜ばせる技術」の再現である。
創業者の意思に立ち返った東芝が感じさせる新たな息吹。「弓射り(曵)童子」が1本の矢をはずして観客を熱狂させたように、これからの東芝がどのようにマーケットを沸かせるか。新しい「機巧(からくり)」を見逃すわけにはいかない。

* RAID:ハードディスクなどを複数台用いて、大容量かつ、信頼性を持つドライブ装置を実現するシステム

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IRマガジン2005年夏号 Vol.70 野村インベスター・リレーションズ

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