1. 金融そもそも講座

第12回「流動性の高い為替、個性の強い不動産」

為替=高い流動性

前回は「お金を動かす先(投資先)の条件」として「安全」「トレーダブル」「市場の大きさ」「機敏な取引が可能」の4条件を挙げ、具体的な市場として認知されているものとして「株」「債券」を取り上げた。今回はそれに続いて「為替」と「不動産」を取り上げる。

「為替」の最大の特徴は、何と言っても主要通貨間市場における極めて高い流動性だ。為替は銀行間(インターバンク)を先頭に、企業と銀行、銀行と個人、先物市場での個人投資家の取引など非常に多様な取引が可能。その多くは株のように取引所経由で行われているわけではないので正確な取引規模をはじき出すのが難しいが、どう低く見積もっても世界では一日当たり兆ドル単位の取引が行われている。年間にすれば世界のGDPを何回も生み出せるだけのすさまじい規模の取引が行われているのだ。だから主要通貨間の為替取引は週末や当該国が休日などの例外を除いて、終始世界のどこかで行われている。東京が終わればアジアにバトンタッチされ、その次はロンドン、その昼頃からニューヨークが始まり、その後はシドニー、東京へと続く。“round the clock(24時間昼夜連続)”が為替市場の大きな特徴だ。

「大部分が取引所取引ではない」「round the clockである」に加えて、為替が他の市場と大きく違うのは株に相当する「銘柄」がそれほど多くないということだ。日本の多くのマスコミが毎日報道している為替レートは、ドル・円、ユーロ・円の二つにすぎない。実は為替に詳しい投資家の間では、オーストラリアドル・円、ニュージーランドドル・円、南アフリカランド・円など、多様な通貨取引に興味が持たれているのだが、それらが一般的なマスコミからはほとんど無視されている。つまり一般的な人々が興味を持つ為替の「銘柄」は極めて少ないということだ。

人気のFX

それには理由がある。為替はある国の通貨と他の国の通貨との交換レートだが、世界では貿易や投資に使われる通貨の数は限られている。様々な国が様々な通貨を持っていても、貿易や投資を行う場合には、ドルやユーロを経由して行うケースがほとんどだからだ。その結果、世界の為替市場で取引されるドル、ユーロ、日本円などの通貨をカウンターパートとする取引が増えるということになる。これは例えば日本人が海外に旅行するときには、「とりあえずドルを持って行こう」と考えることにも示されている。銀行など通貨同士を交換する場所も、世界中の数多い国の通貨の紙幣をそろえておくことはなかなか難しいという実務上の問題もある。

限られた通貨間でもっぱら取引が行われることから、為替は極めて流動性に優れた市場になっている。以前は典型的な電話市場(電話で取引する)だったが、今はネットが主な取引の場となっており、銀行と企業、企業間、それに市場と個人の取引などネット上で展開されている。これもネット回線が高速化した結果、可能になったものだ。電話に加えてのネット取引増大で、ますます市場の規模が膨らみつつあり、それが常に狭い範囲での売値と買値の存在につながっている。

最近個人の間にも広まっている「FX取引」は、為替取引を小口化した上で、為替そのものの動きに加えて金利差などを主な狙いとする取引で、様々な業者を通じて世界中で展開されている。レバレッジを大きくしすぎる傾向があることや、経営基盤のしっかりしていない企業が参入してくるなど問題もあるが、為替はそもそもが流動性の高い市場であることや、手数料が大きく引き下げられたことなどから、今後も個人投資家の間でも広まる取引となろう。世界の歴史を見ても為替市場が閉鎖されることは極めてまれであり、その点でも市場として優れている。

為替市場には貿易のお金、海外投資のお金など、実に多様な資金が流れ込んでおり、世界経済の流れをいち早く反映するものとして、指標性も高い。売値と買値の値幅が非常に小さいのも特徴だ。

個性あふれる不動産

高い流動性を誇る為替とは対象的なのが不動産取引である。なぜなら、不動産は極めて個性に富んでいるからだ。同じ駅から1分でも、表通りに面している不動産と裏通り沿いの不動産では価格が違う。多くの場合、面積も違うだろう。同じマンションの部屋でも、東か西かの向きで値段は違ってくる。つまり、非常に個性あふれるのが不動産のそもそもの特徴だといえる。

単位化されて売値と買値が極めて接近している株、為替、債券の指標銘柄に比較して、不動産は個性が豊かであるが故に、景気情勢によって売値と買値が乖離してしばらく取引が成立しないために、実勢がどこにあるのか分からなくなることもある。

つまり、不動産を買うときには「必ずすぐに売れる」と考えない方がよいということだ。そういう意味では流動性は低く、不動産は業者以外の一般人が売り買いするときには長い目で見ないといけない。かつ、不動産の購入はしばしば借入金を伴って行われるので、変動金利を採用したときには金利の先行きも読む必要がある。またその不動産が存在する地域の浮き沈みも、不動産相場に大きな影響を与える。

しかし不動産市場にはメリットもある。世の中のお金が本当に動き出したときには、大きな値上がりとなるケースがある。なぜなら、不動産は“有限”であるからだ。例えば、ニューヨークのマンハッタンはとても小さな島で、立すいの余地もないほどにビルが出来ている。そこに不動産を持つということは、世界のお金持ちにとって一つのステータスである。だから、マンハッタンの不動産価格は全米の不動産価格が頭打ちになった2007年以降もずっと上がり続けた。希少性が高かったからだ。世界には世界中のお金持ちが持ちたがる不動産エリアがある。例えば、ロンドンのテムズ川沿いなど。人、モノ、カネが集まるところの不動産は誰からも狙われるから高くなる。日本の不動産市場も見ているとそういう場所が東京にも大阪にも、その他の都市にもいくつかある。

不動産取引を何とか小口化、指標化できないかという努力の中で出てきたのが、上場不動産リート(投資信託)だ。東京証券取引所では銘柄コードが8951から30銘柄以上が並んでいる。不動産リートは、株式投信や公社債投信の不動産バージョンともいえるものだが、注意しなくてはならないのは、それぞれのリートによって、対象とするビルなどが違っていて、値段が近くても中味はかなり違うということだ。

つまり不動産は、株や債券以上にそれぞれの個性を考えて投資するモノだといえる。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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