1. いま聞きたいQ&A
Q

FX(外国為替証拠金取引)は、資産運用に活用できるのでしょうか?

レバレッジをかけた取引は短期になりがち

FX(外国為替証拠金取引)は、いわば取引期間が限定されていない「通貨の信用取引」のようなものです。最大の特徴は、高いレバレッジ(証拠金倍率)をかけた効率的な為替取引が可能なことで、実際にこれまでFXを利用してきた投資家の多くは、その点に魅力を感じていたと思われます。

金融庁は今年(2010年)の8月から、FXの証拠金倍率を上限で50倍にとどめる規制を導入しました。来年8月には、上限がさらに25倍まで引き下げられます。この規制によってFXの「投機的」「ハイリスク」といったイメージはある程度、軽減されそうですが、投資家がレバレッジの活用にこだわり続けるかぎり、FXが「基本的に長期の資産運用には向かない」という原則は変わらないといえます。

FXでは今年2月より、投資家の損失額が投資元本(証拠金)の50~80%を超えると、自動的に決済(損失確定)となる「強制ロスカット」の導入も義務化されています。例えば、私たちが1米ドル=100円のときに1万ドル(100万円分)の米ドルを買ったとして、強制ロスカット(証拠金の70%と仮定)が発動される為替水準を見てみましょう。

証拠金が100万円(レバレッジ1倍)のとき、損失が証拠金の70%(70万円)に達するのは、「1ドル=30円」という非現実的な水準まで円高が進んだ場合です。しかしながら、証拠金が50万円(レバレッジ2倍)では「1ドル=65円」、証拠金が20万円(同5倍)では「1ドル=86円」、証拠金が10万円(同10倍)では「1ドル=93円」と、レバレッジが高くなるにつれて強制ロスカットの可能性は一気に現実味を帯びてきます。

このようにFXでレバレッジをかけると、為替相場が自分の思惑とは逆方向に大きく動いた場合に、単に損失を被るだけでなく、そこで取引を終了させられてしまうリスクが高まります。為替相場が思惑どおりに動いて利益が出た場合でも、こうした強制終了のリスクを常に意識していなければならないため、どうしても早めに利益を確定させることになりがちです。つまり、FXのレバレッジ取引では勝っても負けても、期間が短期になる傾向が強いわけです。

低コストの外貨投資として利用価値は高い

FXがまったく長期の資産運用に向かないのかといえば、そうとも限りません。私たちが外貨に投資する意味を、将来の円安に備えたリスクヘッジという観点に置くならば、投資対象は本来、外貨建ての株式でも債券でも構わないわけです。ただし、そこに値動きの異なる「通貨」という投資対象を加えて外貨建て資産のリスク分散を図ったり、外貨預金の感覚で純粋に外貨を保有しておきたいというニーズがある人ならば、外貨預金よりも低いコストで手軽に外貨投資ができるFXの利用価値は高いと思われます。

FXを長期の資産運用に活用する際の工夫として、例えばレバレッジを極力小さくする手が考えられます。前述の例からも分かるように、強制ロスカットが証拠金の70%の損失で発動される場合、取引額100万円に対して証拠金を100万円入れれば(レバレッジ1倍)、70%の円高まで耐えることができます。さらに証拠金を125万円に増やして、レバレッジを0.8倍まで小さくすると、87.5%の円高まで耐えられるようになります。

高い金利収入を狙って新興国や資源国などの通貨を買う投資家も多いようですが、こうしたボラティリティが大きい(値動きが荒い)通貨に投資する場合は特に、レバレッジを小さくして円高への耐久性を強めておくことが重要です。一方で、レバレッジを0.8倍にすると金利収入も0.8倍になるため、高い金利収入を狙うという本来の目的とは矛盾が生じてきます。また、いくら高金利通貨とはいっても、ボラティリティの大きさに比べると金利収入は極めて小さいため、そもそもこうした通貨が長期投資の対象として適切なのかという疑問も残ります。

もしも将来、円安が進んだ場合に私たち日本人が恐れるのは、食料やエネルギーなど生活必需品の輸入物価が上昇することです。現在、それらの代金が一般に米ドルで支払われていることを考えると、やはり私たちが意識すべきなのは世界の基軸通貨ということになります。もちろん今後10年、20年といった長期で為替の世界を考えれば、中国の人民元の動向など予測できない要素があることも確かですが、少なくとも現時点ではFXにおいてもあまり奇をてらうことなく、市場での取引量が多い米ドルやユーロにコツコツと投資しておくのが無難かもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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