1. 金融そもそも講座

第80回「マーケット2013」

2013年のマーケットはどうなるだろうか。2012年最後の号になるので、私なりの予想をしてみたい。ただし、3.11のような予期せぬ大きな出来事は予測不可であるため、予想は出した瞬間から過去のものになる。それでもこのコーナーをお読みの方々には、私なりの一つの考え方を提示したいと思う。

沈滞ムードだったが

ここ数年の日本の株式市場は、「停滞」の一言だった。相場は大枠において日経平均で8000円台の前半を下値抵抗線とし、1万円を超えたところを上値抵抗線としてきた。その間をゆっくりと行ったり来たりしていただけだ。相場を長く見てきた筆者のような人間には、「まるで1970年代のニューヨーク相場のようだ」と思えた。当時の株価はダウで700ドルと1100ドルの間を行ったり来たりしていた。毎日ニュースとして追っていたから鮮明に覚えている。

米国の経済誌が「株式の終わり」という特集を組んだのは1980年代の最初だ。振り返るとちょうどその時期からニューヨークの株価は長期上昇基調に入った。相場の“へそ曲がり”を実感するような展開だった。1970年代のウォール街は、その後の活況でほとんどの人が忘れているが、沈滞ムードが色濃く漂っていた。この数年、日本の兜町も証券会社の廃業、証券会社に勤める人の激減などで元気がなかった。「もう株は駄目だね」という意見を言う人も増えた。

マーケットが成立するためには以下の二つの要素がとても重要だと考えている。

  • 1. two-way(売値・買値)のマーケットが常に存在すること
  • 2. liquidity(流動性)が担保され、かつ参加したいと思う値動きがあること

東京市場の主要株に関してはtwo-way とliquidityはずっとあったが、「人々が市場参加したいと思う値動き」には欠けていた。市場の出来高が1兆円を割るときも多かった。値動きがないと投資家が参加せず、それによってまた値動きが鈍くなる、という悪循環なのである。

市場に活気か

しかし筆者は来年のマーケットは今年までとはかなり様相が違ってくると思っている。恐らく株式市場には活気と値動きが戻ってくるだろう。そう考える理由は以下の通りである。

  • 1. GDPが世界第2位で「日本経済は腐っても鯛」と思っていた人たちが、国のレベルでも企業のレベルでもいよいよ「何かをしなければ“腐った鰺”になりかねない」と考え始めた
  • 2. 家電など一部企業の低迷は極限まで進行し、過去のプライドを捨てなければ企業の存続さえ危ない事態に立ち至っている。これらの企業は過去の成功体験を捨て“新しい成功”に向けてトライしてくると考えられる
  • 3. 国のレベルでもいろいろな理念や考え方はあるし、それを民主党政権で試したがどうにもうまく回らなかった、という認識が強まった。衆議院選挙での「風なきランドスライド(地すべり的勝利)」で国民は自民党に政権を戻したし、自民党も引き締まった顔で政権を担当しようとしている
  • 4. 投資家も「投資不毛の時代」を経て、日本企業の価値や、ギリシャやスペインにならない日本経済のパワーと価値に新たな視線を投げかけている

筆者は現時点でも日本の次の首相になる自民党・安倍総裁の経済政策案には賛成できない面がある。しかし過去に挫折を経験し、今後の政権担当期間で失敗したら自分も自民党も惨敗した民主党のようになることを知っているだけに、国レベルでも新たな試みが出てくると思っている。

相場は相対的評価

日本を取り巻く世界の状況は厳しい。しかし厳しいのはどの国も同じである。欧州もそうだし、「財政の崖」問題を抱える米国もそうだ。中国も国内賃金の上昇などを背景に、今までの経済成長のピラー(柱)だった海外からの投資の減少に見舞われている。新興途上国が抱える問題は、インフレと直接投資の持続性だ。別に日本経済だけが大きな難題に直面しているわけではない。

日本の家電メーカーの惨状を見て「日本経済、日本企業はもう駄目だ」と思う人も多いかもしれない。しかし米国のヒューレット・パッカードが直面している問題、インテルがクアルコムに業界の地位を抜かれた状況などを見ると、経済の基幹技術やデバイスの変化の中で、それに対応できなかった企業の競争力の足早の低下が背景であるという捉え方ができる。

マーケットは常に“相対的な存在”である。日本経済、日本企業がいくら大きな問題を抱えていても、世界で流通しているマネーの運用者が「日本が、日本の企業が相対的に面白い」と思えばお金を投じてくる。市場とはそういうものだ。他との比較をせずに「日本は駄目。企業もだらしがない」と考えるのは時期尚早である。たしかに日本企業が抱える意思決定の遅さなどは大きな問題だ。変えなければならない。しかし、既にその兆候が出ている「市場の活況」は、政権が変わったことに加えて日本とその経済が追い込まれた故のリバウンドがあるという判断によるものだと思う。期待を込めて・・・。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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