金融そもそも講座

飛躍を続けるドバイ

第203回

この「man@bow」には、金融そもそも講座のお隣りに「世界の取引所を知ろう」というコーナーがあるのをご存じだろうか。そのTOPページにある「世界の取引市場一覧」でロシアの次に紹介されているのが、アラブ首長国連邦(UAE)のマーケット。今回はその中でもドバイ証券取引所がある、新興の都市国家「ドバイ」を取り上げたい。筆者はこの年末年始に訪れ、非常に強い印象を受けた。日本人にはまだまだなじみの薄い中東。しかし街を歩きながら、「興味深い、将来の投資の可能性がある」と感じた。株高持続、ビットコイン急落など、年明けのマーケットには様々な動きも出ているが、それは次回以降に。

発展途上の街

その地が「市場」として成功できるかどうかには、いろいろな条件がある。何よりも既に大きく、加えて成長性と流動性の高い企業の株を上場させていなければならないし、その市場にあえて資金を投資しようという投資家の存在も不可欠だ。

加えて都市としてのインフラ(交通網、通信網、上下水道等々)が整っていなければならないし、もっと重要なのは「人材」が豊かに存在するかどうか。さらにはその人材が、その地にとどまって生活しようとしていなければならない。そして「言語」も重要だ。世界に通用する言語を持っているかどうか。余談だが、東京が「世界に冠たる国際市場」になれないのは、この言語(英語)の問題、つまりそれを扱える人材不足の面が大きい。

果たしてドバイはどうか。英語は通じる。資本もアラブ首長国連邦(7首長国の連邦)の兄貴分であるアブダビが潤沢な投資・支援をしているので今は問題ない。街を歩きながら感じたのは「○○中の都市だな」ということ。○○には、「建設」「実験」「冒険」……など、いろいろな単語が入る。

とにかく至る所が「建設中」だ。我々が宿泊したホテルの上階にあるラウンジから見ると、ビル建設のクレーンがあまたある。一体いくつあるんだと数えたくなる。両手では間にあわない。大みそかもドバイにいたので、ホテルの支配人に「(世界一高いビルであるブルジュ・ハリファが舞台の)新年の花火が楽しみ」と話すと、「去年はこのホテルの上階から見ることができたが、もう今年は、ホテルから10分ほど歩かないと見られない。しかも花火ではなく、プロジェクション・マッピングだ」と言われた。毎年景観が大きく変わる都市ドバイ。プロジェクション・マッピングで思い出したが、砂漠でのらくだツアーで一緒になった日本人の女性3人組が「有名なドバイの年越し花火を見よう」と陣取っていたら、今年はプロジェクションで、かつ彼女たちの陣はその反対側。「最悪ですよ、何にも見えなかった」と。お気の毒に、事前の情報収集不足ですな。

高さ、そしてスケール

さて、今回もっとも強くドバイの印象として残ったのは、高さとスケールだ。最初に浮かんできた英単語は「vast」。広大な、広漠とした、莫大な、などの意味を持つ。その典型はしばしば「世界一」が付くドバイモールやドバイマリーナなど、この国の様々な建設物に見ることができる。先のブルジュ・ハリファも、下から見るとすぐに首が痛くなるし、上階から下を見ると「こんなところには住みたくない」と思う。一言で言えばvastだ。東京や大阪が「とっても小ぶり」に見える。

道もvastだ。なにせ制限速度110キロの主要高速道路は、確か片側5車線はあった。つまり両方を合わせると10車線。これは広大だ。東京や大阪の片側2車線の高速道路をいつも走っている身としては、「これが大陸の高速道路か」と思う。車線の定義も明確ではない。どうやら中央分離帯に一番近いのが最高速車線のようだが、日本のように「走行」「追越し」と書いてあるわけではない。それこそ、てんでんバラバラに走っている。活力を感じる。

ごくまれに信号のある一般道も、幅が広い。なかなか道路の反対側には渡れないように見える。歩行者用の信号も少ない。ところが、歩行者が信号のない横断歩道の端に立つと車が止まってくれる。バンプ(出っ張り)があって一般道をあまり高速では走れないようになっている仕掛けだが、これには「マナーがいいな」と思った。地下鉄(大部分は地上を走っている)では席を子供やお年寄りに譲る若者を多く目にした。

公式統計ではドバイの人口は300万人弱らしいが、どっこいそれでは収まらないと思う。膨大な労働者、移民があふれている。ある意味で、中東というよりはアジアだ。街を歩き、そしてモールを回ると世界中の人間と会える気がする。

多様性がウリ

ドバイの「市場」としての魅力は何か、と考えて最初に思ったのがその「多様性」だ。今回利用したのはエミレーツ航空だったが、CAが「この飛行機には世界20カ国から17カ国語を話せる乗務員がおります」とアナウンスしていた。ケタ違いだ。ドバイには世界中からいろいろな人が、機会を求めて集まってきている。

建設労働者もタクシー運転手もインド人が多いが、金融市場を支えるのは欧米やアジアから来た人々だ。あまり高いレベルには達していないが、世界中の料理もある。宿泊したホテルの近くには日本の寿司屋が店を開いていた。実はドバイは、以前はちっちゃな漁村・港町だったそうだ。ドバイ博物館にその頃の記録が残っている。砂漠と海に挟まれた小さな村が、突然大きな大都会に成長した印象だ。今も膨大に伸びる都市景観。都市全体が天空の上限を確かめようと伸びているようにも見える。

これからはどうだろうか。ドバイは大きな危機を2回ほど経験している。リーマン・ショック後の金融危機は世界的なものだったが、ドバイもその打撃を受けた。ドバイ危機ではビル名(今はブルジュ・ハリファ)の突然の名称変更に遭遇したし、労働争議にも直面した。しかし周辺のビル開発は今も活発に続けられ、今や世界中から観光客を集めている。実に「希有(けう)な発展形態の街」だと思う。石油資源の少ないドバイが考え抜いた成果だろう。同じ首長国の親分格のアブダビからを中心にまず資金を呼び込み、都市建設に着手し、集まる労働者で街を形成、それを完成させる中でさらに投資を呼び込み、そこに観光客を集めて都市を大きくする……

ブルジュ・ハリファの建設には、数え切れないほどの国の出身者が携わっているはずだ。それをマネジメントできただけでもすごいことだ。ちゃんとビルは完成した。今もそこに厳然と建っている。地震が少ないこともあるが、そのマネジメント力には驚く。見ていると設計の良さが分かる。実に様々な事に利用できるようになっている。この世界一高いビルとその横にある世界一広いモールが、観光客を世界中から集める。ドバイのアトラクションそのものだ。

危機を経ながらも、成長率が低下する中でも、ドバイの拡大は続いている。街全体はよく管理されている。危険を感じることはないし、泥棒やスリの話もあまり聞かない。歩いていてもすこぶる安心感がある。確かに疑問符(アブダビの資金が枯渇したときはどうか、世界の観光客がドバイに飽きたときはどうかなど)はいくつもある。しかし「面白いマーケットに将来なるかもしれない」という印象を強く持って街を後にした。5年後くらいにまた行きたいものだ。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。