1. 金融そもそも講座

第190回 マーケットで重みを増すIT株
インフラとしてのIT産業

IT特集に戻りたい。前回の最後に「重要なのは、ITテクノロジーを駆使して社会の変化をもたらし世界を揺り動かしているのが、政府ではなく民間企業だということだ。それが世界的なIT企業の評価を高め、そしてアマゾン株の1000ドル超え(たとえそれが一時的にせよ)をもたらしている。次回はその辺を深掘りしたい」と書いた。そこで今回は、IT産業がインフラであり、それ故に情報のみならず金融、セールスなど数多くの分野で支配力を高めつつあるという点を強調したい。インフラといっても道路や鉄道、ビルとはちょっと違う。そのインフラは、日々バージョンアップする。

日々進化するインフラ

IT産業について「それはシステムである」と前回書いた。個々の製品に宿る機能にとどまらない。クラウドもIoTも、システムとして動いている。Wannacry(ワナクライ、ランサムウエアの一種)などのウイルスはシステムを攻撃している。故にその影響は全世界に及ぶ。逆にいえば、ITは我々人類にとって「あって当たり前の重要インフラになった」ということだ。それはユビキタス的に存在する。電気や道路や電車と同じような身近なインフラだ。

ここで重要なのは、従来のインフラとは根本的に違うということだ。他のインフラと違って根幹を含めて日々更新され、新しくなる。例えば鉄道。新幹線の登場(1964年)は、日本のインフラとしての鉄道にとって大きなバージョンアップだ。目に見える変化。しかしそうした我々の目に見える旧来インフラのバージョンアップは、何十年に一度だ。システム運用の現場では日々進化しているのかもしれないが、それは我々の目に見えない。電気など私が生まれた時から変わらず、今の形で供給され続けている。

しかしインフラとしてのIT産業は違う。めまぐるしく変わるのだ。私などスマホにはあまりアプリを入れていない方だが、それでも週に数個かはアプリのバージョンアップがあるし、時にその中には「こんなに機能が加わるんだ」というものが含まれる。そもそもWindowsでもMacOSでも、その登場以来、実に多くの、そして大きなバージョンアップを繰り返している。その機能の向上たるや、我々の日常や仕事を大きく変えている。便利にしてくれている。

つまり「インフラとしてのIT産業」は日常そこにあるものでありながら、その中身が日々変わる「今までとは異種のインフラ」だということだ。これは世の中の変化、社会の仕組み、我々の生活を大きく変え続ける。将棋、囲碁の世界を変えるだけではない。

高まる支配力

社会の仕組み、我々の生活を大きく変えているということは、別の視点から見ると、インフラとしてのIT産業に大きな支配力があるということだ。この文章を書いている前日の日経新聞(朝刊)の一面トップの記事は「アマゾン、国内で1兆円超 小売り大手の半数は減収」という見出しのもと、「日本の小売業でネット通販の存在感が一段と高まってきた。日本経済新聞社がまとめた2016年度の小売業調査では、ネット通販最大手アマゾンジャパン(東京・目黒)の売上高が初めて1兆円を突破、セブン&アイ・ホールディングスなど大手小売業は半数が減収となった。国内の小売市場が2年連続で縮小するなか、ネット通販が店舗型小売業のシェアを奪う構図が鮮明になってきた」と報じている。

この記事は「アマゾンのネット通販に押されモールの数が激減し、スーパーマーケットも大きな打撃を受けている」という米国での報道に関連した、「日本では何が起こっているか」を取り上げた記事といえる。

重要なのは事態の進展具合やパターンに違いはあっても、日本と米国で同じような「アマゾンへのビジネスの流出」「既存小売店の売り上げ減少」が起きているということだ。当たり前だが現象は国境を越えているし、おそらく日米以外でもアマゾンなどネット物販会社が販売を増やしているところでは同じ事が起きているだろう。つまりネット通販のマーケット支配力は著しく向上している。

物販に限らない。人間が行うあらゆる行為は情報を伴うが、その情報は「ネット依存」そのものだ。つい20年前にはなかったツールだから、既存のルート(例えば辞書)からネット(例えばネット検索)への転換はすさまじい勢いで勢力図が塗り替えられている。つまりネットや、それを抱えるIT産業の「マーケット支配力」がすごく上がってきているし、それは今後も拡大すると考えるのが自然だ。

ソフトウエア販売の分野を考えると、アップルストアに自社のアプリを入れてもらうには同社のルールを受容しなければならない。Androidでもそうだ。入れてもらって初めて信用力がつき、故に売れるようになる。つまりアップルやグーグルはソフトウエアの流通に強い支配力がある。IT企業群が持つこの「各方面での市場支配力」に株式市場が注目するのも当然だろう。むろんIT産業は日本の半導体、デバイスなどの業界を包括した複層的なピラミッド構造をしている。今マーケットで注目される企業群は、その最も目立つところにいる存在といえる。

膨大な金融力も

さらに思わぬ所でも、ネット企業は力を蓄えつつある。例えば「流通」と「金融」は表裏一体だ。流通では逆方向にお金のフローが生ずる。それが金融ということだ。ネットで買い物をすると分かるが、「この次に払う」はあり得ない。直ちに資金の移動が購入者からクレジットカード経由でアマゾンのアカウントに生ずる。

その資金の大部分は最終的には納入業者に支払われるが、その資金移動がたとえば2週間で回転する場合、資金は2週間アマゾンに滞留することになる。それは驚くべき金融力に通じる。なにせ日本での売上げが年間合計で1兆円に達するのだから。セブンイレブンにはセブン銀行がある。これは流通と金融の表裏一体さをよく表しているが、例えばアマゾンが銀行を始めたらその規模は非常に大きなものになる。なにせ物販の規模がセブンのネット通販とは比べものにならないくらい大きい。

この金融力は、いつかこれまでの専業銀行の地位をも脅かすものになる可能性がある。銀行業は一般国民の大切な預金を預かるという公共性故に、制度的に守られている産業だ。それは必要だが逆に制度上できないことも多い。米国は日本とはまた違った法的枠組みを持っている。なので「アマゾンの銀行業進出」といった単純な形にはならないだろう。しかしアマゾンが持つ金融力は非常に大きなものだ。日本では楽天がグループに銀行を持っていて、今後どんな動きをするのか注目される。

いずれにしても、IT大手と称される企業群は情報に関わる力だけでなく、金融、物販など各分野での支配力を強め、かつその形を日々変容させている。それは従来の概念から大きくはみ出している「インフラ」だ。その潜在力は膨大であり、この圧倒的な、政府をも超えた存在感・支配力・金融力を、マーケットは評価しているのだと思う。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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