1. 金融そもそも講座

第187回 マーケットで重みを増すIT株

いま世界のマーケットを見渡すと、とても力強いセクターがあることに気付く。NASDAQ100といわれる米国のハイテク群銘柄だ。株式指数としてダウ工業株30種平均がやや足踏み感があるのに対して、NASDAQ100を率いる米国のハイテク大手の株価の伸びはすさまじい。これには「投資の神様」も「間違った」と認めるほどだ。

ハイテク株ブームは2000年前後にもあったが、今は静かに、しかし確信をもってこれら銘柄の株価が高値を追っている。むろん調整はあるだろう。筆者の以前からの見方は「AIを含めて本当のハイテク社会はまだこれから」というもので、昨今のNASDAQ100の動きはそれに合致しているようにも見える。今回から、いま世界の株式市場をけん引する米国の大手ハイテク株の跳躍ぶりを数回にわたって分析する。

投資の神様

投資の分野で筆者が最近一番興味を持っているのは、投資の神様ともいわれる米著名投資家のウォーレン・バフェット氏の「反省の弁」だ。

「グーグルへの投資機会を逃してしまった」「米ネット通販大手アマゾン・ドットコムも将来性を正しく理解できずに投資機会を逃した」……など。

自らが率いる投資会社バークシャー・ハザウェイの株主総会などで述べているもので、何せ「神様の反省の弁」なのでマーケット関係者の注目度は高い。バフェット氏は「理解できないものに投資しない」が持論。長年にわたってIT企業、特に新しいIT企業への投資を限定してきた。

しかしそのスタンスが変わったと思われたのは昨年。米アップルへの新規投資が判明し、今年に入ってからは同株を買い増したと報じられた。それは当たっている。アップルは世界一の時価総額の会社になった。しかし同社と同様に株価を急速かつ持続的に伸ばしているアマゾンやグーグルには、バークシャーは投資をしていない(とみられる)。バフェット氏は、アマゾンを率いるジェフ・ベゾス氏に関して「彼の手腕を見抜けなかったことは残念だった」と述べている。

バフェット氏自身が認める「投資判断のミス」は、バークシャーの時価総額の伸びの悪さにもつながっている。時価総額はいつの時点で計測するかが重要だが、「世界株式時価総額ランキング」(4月時点)を見ると、同社の現在の位置はアップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック、エクソン・モービル、ジョンソン&ジョンソンに次いで8位となっている。前年は5位とか6位にいた。そこから順位は低下した。

上位を見れば我々が知っている米ハイテク企業がずらり。ベスト7でハイテク株以外で入っているのはエクソン・モービル、ジョンソン&ジョンソンの2社だけである。もし仮にグーグルやアマゾンに投資していたとしたら、バークシャーの順位は落ちなかったかもしれない。

この原稿を書いている時点では、首位アップルの時価総額は8000億ドル(約91兆円)をはるかに超えている。他のトップ・ハイテク銘柄も最近の株価上昇ぶりで伸びはすさまじい。その間に順位変動が起きているかもしれないが、印象としてはセクター全体として上がっているというのが当たっている。

すさまじい伸び

その証拠はNASDAQ100だ。ダウがやや足踏み感があるのに対して、この伸びはすさまじい。日本でもよく報じられるNASDAQ指数とは別に、NASDAQ100は同指数の中にあって非金融業(金融セクター以外)であり、かつ時価総額と流動性が高い上位100銘柄で構成される。もともと時価総額と流動性が高い上位100なので上がり始めたら速いが、最近はその速度が尋常ではない。

例えば「NASDAQ100 チャート」で検索すると期間別の値動きが出てくるが、期間を“最長”にしてみれば、いかに最近のハイテク株の上げが持続的であり、直近で加速しているのかが分かるだろう。

上位銘柄を見て気が付くのは「話題に事欠かない」ということだ。例えばいまはまだ一社だけとなっている8000億ドル・クラブのアップル。同社は何といっても秋にも出すといわれている10周年記念の「iPhone新モデル」が投資家の期待感をあおっている。実は直近のiPhoneの売り上げは芳しくない。それは新モデル待ちの動きが広がっているからだ。しかし株価には新モデル待ちが逆にはたらく。むろんティム・クック最高経営責任者(CEO)が自社株買いプログラムの規模を、昨年の1750億ドルから2100億ドルに拡大すると発表したことも好感されている。

他の会社も話題が尽きない。グーグルは碁や将棋のAIでの活躍が世界に報じられているし、自動運転車でも先を行っている。アマゾンは我々日本人にとっても日常用語だ。物品販売の世界では無視できない存在であり、宇宙開発やメディアまでその事業領域は手広い。そういえばベゾス氏は世界富豪ランキングで2位に浮上した。バフェット氏を抜いての世界2位だ。日本経済新聞では、「米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏から首位の座を奪い取る可能性も出てきた。電子商取引(EC)による成長でアマゾン株が1年前に比べて4割超上昇したことが寄与している。富豪としてのベゾス氏の台頭は世界の産業構造の変化を映し出している」と報じている。フェイスブックも硬軟、プラスマイナス含めて話題に事欠かない。

日常になったハイテク

何が起こっているかといえば、米国のハイテク企業が提供する各種のサービスが、世界の人々にとって「日常」「あるのが当たり前」になった、ということだろう。筆者の一日の生活を考えても、NASDAQ100の主力を構成する時価総額ランキング上位の米ハイテク企業のサービス・製品に、出会わない日はない。「フェイスブック」には記事を書き、友人と情報を交わす。街で見る、忙しく動いている宅配便の配送員が抱えている荷物の多くは「アマゾン」由来だろう。手元にはPC・スマホと、「アップル」の製品がいくつもあり、次機種に期待を寄せているのは筆者自身でもあり、それは多くの読者の方々と同じである。

最先端のテクノロジーが一般の人々の手元に届くには長い時間がかかる。モールス信号がラジオにまで発展するのには何十年もかかった。それまでの社会を変えていくのだから、テクノロジーの社会的波及には時間がかかる。しかしITは従来のテクノロジーの範囲をはるかに超えた、画期的な技術である。情報を全て「0」と「1」で表す中で、それに関わる産業の壁をぶち壊すインパクトがある。「壁崩しの技術」については拙著『スピードの経済』(日本経済新聞社、1997年)でも指摘したが、社会にフル・インパクトを及ぼすには時間がかかる。なぜなら社会には慣習(思考のそれを含めて)や、法律(従来の枠内の)など「壁」があり、それらを少しずつ打破していかなければならないからだ。

完全自動運転車の普及を考えてみれば分かる。むろんテクノロジーがまだ完成していないという事実はあるが、たとえ完成しても今度は道路交通法の「安全運転の義務(運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作しなければならない)」という文言の改正を待たなければならない。法律の改正には時間がかかる。社会的合意の形成も不可欠だ。「モールス信号→ラジオ」より、よほど時間がかかる。法律も社会の基盤だから、それが同じく社会基盤のテクノロジーの要請で変わるのには時間がかかるのだ。

ITの社会的インパクトの一側面には、この5月中旬に世界を襲ったランサムウェア騒動のようなマイナス面もある。しかし毎日死者も出る自動車事故(余談だがインドや中国ではめちゃ多い)が起きているからといって、自動車はいらないという議論に全くならない。それと同様に、「ウイルス騒動があるからITを捨てよう」とはならない。ITはテクノロジーであり、常に自動車と同様にプラス面が大きく、そして時にマイナスも出る。自動車は安全基準の厳格化など、マイナスを克服しようとする歴史の中で使われてきた。ITもそうだ。

「理解できないもの」というバフェット氏のITに関する印象には、偽らざる面もあるのだろう。確かにウイルス騒動に関しては「誰の仕業か」がすぐに分かることはまれだろう。しかしそんな事情を無視してIT社会は進む。社会の基幹技術としての座を確かなものにしながら。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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