1. いま聞きたいQ&A
Q

米国で同時多発テロ事件が起きましたが、ニュースなどでの説明は、細かく伝えてくれないのでわかりにくいです。そこで質問ですが、なぜ株が下落し、直後に円、石油、金などは値上がりしたのですか?できれば、わかりやすくお願いします

いま、世界の景気は米国景気次第となっています。特に、日本の景気は輸出回復頼みとなっており、主要な輸出先である米国景気に大きく左右されています。昨年秋以来、日本の景気が急速に後退したのは、米国での情報技術(IT)景気が失速し、急速に設備投資などが減少し輸出が急減したためです。
同様に、アジアも主要な輸出先である米国景気の減速の影響を受け始めています。このため、日本、ひいては世界の投資家は米国景気が緩やかな減速にとどまり、年内には回復しはじめるというハッピーシナリオ(よくソフトランディング=軟着陸シナリオと呼ばれています)に期待しています。

こうした最中での同時テロ事件ですから、投資家に与えたショックがいかに大きいかおわかりでしょう。
「米国経済の中枢であるニューヨークが直撃されたことで、米国経済が混乱するのではないか」「唯一堅調だった米国の個人消費も、テロのショックで急激に冷え込み、下支え役がなくなった米国景気は急速に悪化し、世界全体がひどい不況になってしまうのではないか(よくハードランディングシナリオと呼ばれています)」
ということになり、日本や欧州の株式が急落したのです。

円が急騰したのも同じ流れです。
これまで米国経済の強さを背景に円安・ドル高だったのですが、米国経済に対する不安からドルを売って円を買う投資家が増え、円高になってしまったのです。円高は輸出への依存が高い日本経済にも悪影響を及ぼしますので、日本株下落の要因にもなりました。

金が上昇したのも米国経済に対する不安からです。
通貨はその国の政治・経済の強さがあってこそ価値を持つのです。「米国は不安だが、日本も景気は後退しているし、アジアや欧州にも不安がある」という人々は、実態的な価値を持つとされる金に飛びついたわけです。長い間にわたって金は値下がりしており、割安感があったことも手伝いました。

石油価格の一時的な高騰はテロの犯人がアラブ系とされたことが背景となっています。
アラブ系住民の多くは、世界の原油の大半を生産している中東地域に住んでいます。米国が今回のテロに報復し、1990年ごろの湾岸戦争のような事態になったら、石油の供給が減り、価格が高騰しかねません。それを先読みして、マーケットが反応したわけです。

以上のように、テロが投資家に与えたショックが様々な連想を生み、マーケットが動いたわけです。
こうした連想が仮に現実のものになるとしても多少、時間がかかるのですが、様々な投資家の思惑で動いているマーケットはそれを先読みして動いてしまいます。往々にして過度に反応します。
テロが発生した翌日の日経平均株価は1万円を割りましたが、その2日後には再び1万円台を回復しました。また、石油価格はテロ発生直後に急騰した後、世界的に景気が低迷すれば、石油の需要が減るのではないかという思惑が強まり、急落しています。「テロ事件の影響がどの程度になるのか」と、世界の投資家は固唾(かたず)を飲んで注目しています。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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