「相場観とは何か」、むずかしい質問ですね。
ひとことで言えば、相場観とは、株価(個々の企業でも、日経平均でも)がこの先上がるのか下がるのか、どちらの方向に向かって動いてゆくのかを予想することを指します。「明日以降の」株式市場の見通しですね。
実際に株式市場で株の売買をしようとする人は、誰もが自分たちの見通しに基づいて売買を行っています。上がると思えば買い、下がると思えば売ります。「私は将来をこのように予想しています」と、自らの見通しを人々に教えることを職業にしている人たちもいます。
しかし明日のことは誰にもわかりません。特に株式市場では、世界中で起きているあらゆる出来事が、大なり小なり何らかの影響を与えますので、それらをすべて見事に予想してゆくのはたいへんむずかしいことです。むずかしいのですが、株式市場で株を売買しようとする以上、先行きの見通し、つまり「相場観」を持つことが欠かせません。わかっているようでわかりにくい「相場観」というものの正体を探ってゆきましょう。
「相場観」は、たくさんの視点が重なって重層的に形作られています。階層の一番下に「企業に対する見方」、企業観というものがあって、その上に何層もの視点が積み重なっています。ここではNTTを例にとって見てゆきます。
まず最初に企業としてのNTTの特性を知らなければなりません。一番ベーシックなことですが、NTTは何をやっている会社なのか、何を売っていて、お客さんは誰で、社員は何人くらいいて、本社はどこにあって、売上高はどれくらいなのか。NTTに関するありとあらゆる知識、NTTとライバルのKDDIの違い、NTTだけの特性、これが「企業観」です。
企業観をもう少し細かくみてゆくと、株式市場においてNTTはどんな時に動くのか、誰がNTTの株式を持っていて、どんな時にいくらくらいで買う(売る)のか、配当はいくら出しているのか。これらは企業観よりももう少し下に位置しており、NTTの株式市場内での位置づけという意味で「銘柄観」と呼んでもいいでしょう。「企業観」とは少し異なります。
次にNTTのような企業(電話会社です)はどんな時に売上が伸びるのか、産業としての電話会社の位置づけ、という視点が必要になります。NTTがひとりでどんなに努力しても、産業としての電話会社を取り巻く状況が苦しければ、NTTの努力はなかなか報われません。今どんな産業が伸びているのか、これからどんな産業が伸びるのか、つまり「産業観」が銘柄観、企業観の上に重なってきます。
産業観の上には「経済観」が来ます。NTTの属する電話会社も含めて、すべての産業を抱きかかえる日本という国の経済は今どのような状態にあるのか、景気がいいのか悪いのか、これからよくなるのか。それを冷静に見きわめる目が経済観です。日銀が金利を下げた、政府が景気対策を出した、これらのニュースは経済観からの視点で見てゆくことになります。
まだあります。経済観の上には「社会観」が来るでしょう。日本の人口は増えるのか、東京にはビルがどんどん立っているけど、それが地方には広がってゆくのか、日本は活気のある住みやすい国になってゆくのか。NTTが企業として伸びるかどうかは、経済観の上にあってさらに広い範囲の「日本はこれからどのような方向に向かってゆくのか」、つまり社会観によって論じられる必要も時にはあります。
社会観の上にはさらに「国際観」が重なります。アメリカの経済はよくなるのか、アジアや中国の経済はこれから強くなってゆくのか、その時日本の経済力はどこまで通用するのか、円とドル、ユーロの関係は変わってゆくのか、原油の値段は上がるのか。NTTの競争相手はKDDIではなく、アメリカやイギリスの電話会社という場面も増えています。ここまで来るとものすごく広い範囲の知識になってしまいますが、世界と日本という関係は決して無視できません。これが国際観という視点です。
これで終わりではありません。国際観の上には「歴史観」が重なります。大きな目で見て20世紀の100年間と21世紀の100年間はどんな違いがあるのか。歴史観は「時代観」と言い換えてもよいでしょう。地球環境問題などはこの視点から見てゆかないと大きな枠組みとしてはとらえきれません。時代はどのような方向に向かっているのか、その時、家庭の電話と携帯電話とではどちらが伸びるのか。歴史観も必要です。
そして歴史観の上にはさらに「文明観」が重なります。エジプト文明、中国文明、中世のキリスト教文明、20世紀の機械文明、と人類の歴史は移り変わって、現在の潮流は民族文明の流れが世界のあちこちで噴出しています。これまでの国と国との関わりが変化して、民族と民族との関わりに主役が移っています。2年前にアメリカで悲惨なテロ事件が起こり世界経済に大きな被害を与えましたが、これなどは文明観の視点から見てゆかないと理解できなくなってしまいます。
話が果てしなく広がってしまいました。最初の質問は「相場観とは何か?」でした。ここまで見てきた「企業観、銘柄観、産業観、経済観、社会観、国際観、歴史観、文明観」をすべてひとまとめにしてワンパックにまとめたものが相場観に他なりません。日々のマーケットでは、この中から主に企業観と産業観が前面に出てきますが、その後ろには広大な知識と視野が総動員されています。そして毎日の株式市場では、大勢の人たちがこのような視点に立った上で売り買いを行って、日々の株価が決められてゆきます。
このように書くと複雑でむずかしく感じられてしまうかもしれませんが、これから株式市場を調べて行く際に、どの視点からのアプローチなのかをいつも明確にすることが理解の近道だと思います。まずはできるところ、得意な分野から手をつけていって、時間をかけて株式市場の奥深い部分まで追求してゆきましょう。