1. いま聞きたいQ&A
Q

ギリシャ危機が「ユーロ危機」にまで拡大したのはなぜですか?

機関投資家がユーロの見切り売りを始めた

ギリシャ危機は「ユーロ危機」というかたちで、その深刻さの度合いを増しつつあります。今年(2010年)の5月から6月にかけて、ユーロは米ドルに対しては約4年ぶり、日本円に対しては約8年半ぶりとなる安値をそれぞれ記録。その後、ユーロ相場は少し落ち着きを取り戻したものの、ユーロ諸国の財政赤字問題や欧州銀行の不良債権問題など、通貨ユーロおよびユーロ圏の金融システムに対する市場の懸念は拡大の一途をたどっています。

そもそも何故、GDP(国内総生産)の規模でユーロ圏全体の3%弱にすぎないギリシャの財政問題が、欧州経済を揺るがすような大混乱をもたらすことになったのでしょうか。それは今回のギリシャ危機やユーロ危機を、「ユーロ・バブルの崩壊局面」と考えれば、分かりやすいのではないかと思われます

ギリシャやスペイン、ポルトガルなど南欧諸国の国債暴落や、通貨ユーロの急落を最初に演出したのは、いずれもヘッジファンドなど投機的な資金の動きでした。しかし、最大7,500億ユーロの金融支援策や中央銀行による国債買い入れなど、欧州金融当局による対応が明るみになるにつれて、皮肉にも新たな資金流出が発生します。欧州各国の財政出動や、それにともなうユーロの増刷(減価)が今後も続くことを懸念して、世界の政府系ファンドや年金基金、保険会社などの機関投資家が、いわゆるユーロの「見切り売り」を始めたのです。

実は、これらの機関投資家は過去数年にわたって、米ドル資産からユーロ資産へと資金をシフトしてきていました。その背景には、2008年の金融危機によって信用不安が露呈した米ドルに代わる「新たな基軸通貨ユーロ」への期待と同時に、欧米間の金利差に目をつけた資金の動きも少なからずあったようです

米国ではサブプライムローン問題が発覚した2007年の秋以降、FRB(米連邦準備理事会)が利下げを急ピッチで進めましたが、ECB(欧州中央銀行)はリーマン・ショックが発生する2008年秋まで、インフレ抑制にこだわって金融緩和を躊躇してきました。結果として、低金利の米ドルで資金を調達して高金利のユーロ資産に投資する「ドル・キャリー取引」が拡大し、大量の資金がユーロに流入したのです。

バブルの後始末に本気で取り組めるか

もっと長期の視点で欧州経済圏・ユーロの実態を見てみると、例えばギリシャは2001年のユーロ加盟時から、財政状況の悪さが指摘されていました。ユーロ圏の拡大を急ぐユーロ諸国はギリシャの財政問題に目をつぶり、当のギリシャはユーロに加盟したことで、本来よりも低金利での資金調達が可能になります。低金利とはいっても、同じユーロ圏に属しながらドイツやフランスよりも高い金利がつくギリシャ国債には、魅力的な投資先として周辺国の銀行などから大量の資金が集まりました。その資金をギリシャは年金や公務員給料などの、いわゆる財政拡大に使っていたのです。

このように、二重三重の「メッキ」によって、ユーロ諸国はその経済規模と信用力を強化・拡大してきたということができるでしょう。現在、メッキが次々にはがれていくなかで、市場が大きな関心を寄せているのは「ユーロ諸国がバブルの後始末に本気で取り組めるかどうか」です。

今年7月23日、欧州の銀行監督当局は、EU域内20カ国の銀行91行を対象に実施したストレステスト(資産査定)の結果を発表しました。ストレステストとは、銀行が景気悪化などのストレス(負荷)にどれだけ耐えられるかを調べるもの。今回の査定では、景気や市場環境が予想以上に悪化した場合、自己資本が足りなくなる銀行は7行とされましたが、その結果に市場は早くも不信の目を向けています。

銀行が満期保有を前提としているギリシャやスペインなど南欧諸国の国債が、デフォルト(債務不履行)に陥った場合の銀行の損失を、査定の計算に入れていなかったからです。いわばテストの内容が甘かったわけですが、こうした情報開示の不徹底さや対応を先送りする体質は、1990年代の日本における不良債権処理からも分かるとおり、問題を長期化・深刻化させるにすぎません

市場原理を重視した米国型モデルも、高福祉の成熟社会を掲げた欧州型モデルも事実上の行き詰まりを迎えたいま、世界は西欧型の資本主義に代わる新しい経済モデルを模索していく必要に迫られています。その意味においても、ユーロ諸国がバブルの後始末にもたついている暇はないと思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

バックナンバー2010年へ戻る

目次へ戻る