1. いま聞きたいQ&A
Q

いまデフレ脱却のために注目されている手法は何でしょうか?

適度に財政を悪化させてインフレを起こすという裏ワザ

インフレにまつわるホットな話題といえば、米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授が提唱する新たな脱デフレ政策でしょう。その要諦は「政府が将来にわたって財政収支の悪化を約束すれば、安定的なインフレを起こせる」というもの

日本のように金利水準がゼロ%近くの環境下では金融緩和の効果が薄れるため、日銀がどれだけ量的緩和を進めても物価上昇率は目標の2%になかなか届きません。そこで政府が財政支出の拡大を通じた適度な財政悪化を容認し、人々のインフレ期待を引き上げるべきというわけです。

こうした主張の基になっているのが、同じくシムズ教授による「物価水準の財政理論(FTPL)」です。国債発行などで政府債務が積み上がり、現状の税収でその返済が難しい場合、通常であれば政府は将来的な増税や歳出削減によって債務の返済を目指そうとします。ところが事実上はもうひとつ、お金の価値が下がるインフレを利用して債務を帳消しにするという方法も残っています。

FTPLでは政府が増税や歳出削減による財政再建をひとまず棚上げし、「これからインフレを起こして政府債務の返済に充てます」と宣言することで、個人や企業のインフレ期待を高められると考えます。自説である壮大な量的緩和によっても物価が一向に上がらず、このところ肩身が狭かったであろうリフレ派にとっても朗報だったのでしょう。一部ではシムズ教授の理論に同調して財政拡張派にくら替えする動きも出てきています。

ただし、この理論には問題点が2つあります。ひとつは適度な財政悪化というような都合の良い状態が、本当に実現できるのかということ。増税を先送りして財政悪化とインフレを容認しながら、ハイパー・インフレにはならないよう管理するとFTPLの支持者は言いますが、どうも即効薬を求めるあまり自己矛盾やご都合主義に陥っている感が否めません。

もうひとつは結局のところ、この理論も人々のインフレ期待に依存しているという点です。異次元緩和やマイナス金利といった過去4年にわたる日銀のきわめて実験的な金融政策は、日銀がインフレをどれだけ強く約束しても、日本国民がそれを容易には信じてくれないことを図らずも証明する結果となりました。同様にFTPLにおいても、国民が政府の公約を信じてインフレ期待を高めてくれる保証など、どこにもありません。

ドル高・原油高の順相関がインフレ率急上昇を招く?

野村証券では今年(2017年)のリスクシナリオのひとつとして、日本のインフレ率急上昇を挙げています。その背景にあるのは、従来は逆相関を示してきたドル相場と原油価格の関係が16年11月から崩れ、ドル高と原油高が同時進行し始めたこと。

ドル安・原油高といった逆相関がとくに目立ったのは08年~13年半ばで、これはリーマン・ショック後にFRB(米連邦準備理事会)が金融緩和を加速していた時期と重なります。大規模な金融緩和による金利低下がドル安を招く一方で、市場に提供された「過剰流動性」が投資家のリスク選好度を高め、投資マネーが流入して原油相場を押し上げた格好です。FRBがすでに利上げへ動き、日欧もこれ以上の金融緩和には消極的な現在では、過剰流動性ではなく原油の需給状況に基づいて投資する市場参加者が増えている模様で、それがドル相場と原油価格の関係を変化させた一因と考えられます。

今後もドル高・原油高という順相関が続いた場合、日本にとってドル高は輸入品の価格上昇をもたらし、原油高は原材料やエネルギーなどの価格上昇につながります。互いに物価上昇圧力を打ち消し合ってきた2つの相場が、ともにインフレ要因として働くことになるわけで、相場の動向次第では思いがけず日銀やリフレ派の念願がかなう可能性もないとは言い切れません。

インフレといえば金利上昇が付きものですが、日本よりインフレがはるかに現実的になってきた米国では、金利と株価の関係に注目が集まっています。一般にインフレ進行時には債券を売って株式を買う動きが強まりますが、金利が高くなりすぎると株式投資にもマイナスの影響が及んできます。過去の経験則からすると、米国では長期金利が5~6%の水準においてその分水嶺を迎えるようです。

米国の長期金利は現在2.5%程度で推移していますが、このレベルでは金利上昇(債券価格は下落)が景気回復を示唆するプラス材料と受け止められ、株価も上昇しやすくなります。しかしながら、金利が5~6%まで高まると本格的にインフレ不安がくすぶり始め、そこからのさらなる金利上昇は「企業の借り入れの利払い負担増→収益圧迫」という懸念につながって、株価の下落要因になるとのこと。

FRBによる利上げは当面、緩やかなペースが見込まれることから、金利の分水嶺に達するまでにはまだ時間的余裕があります。米国ではダウ工業株30種平均が初の2万ドル超えを記録し、割高感を指摘する声も上がっていますが、金利と株価の関係からみる限り、株式投資家にとって心地良い環境がしばらくは続くことになりそうです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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