1. いま聞きたいQ&A
Q

円・ドル相場の見通しについて、基本的な考え方を教えてください

日米金利差が拡大するとドルが買われて円安が進む

過去10年ほどの外国為替市場を振り返ると、円・ドル相場は一時の例外を除いて、基本的には日米金利差に連動して動いてきました。世界の投資マネーは相対的に金利が高い国の通貨へと向かうため、日本の金利に対して米国の金利が高くなればなるほどドルが買われて、円安・ドル高が進むというメカニズムです。

日米金利差をもたらす要因として近年、大きな注目を集めたのがマネタリーベース(中央銀行が市場に供給する資金量)です。中央銀行が金融緩和を通じてマネタリーベースを増やす場合、原則としてそれに見合うだけの国債を金融機関などから買い取るため、市場に流通する国債が減って金利は下がります。その分、通貨安が進みやすくなるわけで、いわば金融緩和による金利低下圧力の強さが円・ドル相場を決めるという考え方です。

日銀の黒田東彦総裁が就任した2013年から15年にかけて、マネタリーベースの日米比率と円・ドル相場には密接な相関関係が見られました。この相関は提唱者である著名投資家の名前を冠して「ソロスチャート」と呼ばれています。しかしながら、金融緩和が長期化・大規模化してゼロ金利やマイナス金利が日常的になると、日銀が資金供給量をどれだけ増やしても金利を低下させる効果は限定されてしまいます。結果として16年以降、ソロスチャートは完全に崩れることとなりました。

日銀が長期金利をゼロ%程度に固定する新政策を導入したため、今後の日米金利差はほぼ米国の金利動向に左右されると言っていいでしょう。FRB(米連邦準備理事会)は基本シナリオとして、今年(17年)中に3回の利上げを予定しています。米労働省が発表した16年12月の雇用統計では、米国における賃金の伸び率が7年半ぶりの高水準となりました。FRBが重視する雇用情勢の堅調さと合わせて、利上げ遂行への環境は整いつつあるように思われます。

問題は、良くも悪くもトランプ次期政権にまつわる不確定要素が多いことです。トランプ氏が公約した大型減税やインフラ投資の実現性については、いまだに疑念の声が多く聞かれますが、たとえ実現にこぎつけたとしても、経済効果が表れるのは早くても今年の後半以降となります。それ以前にドル高や金利上昇が米国の企業業績や住宅市場などへ悪影響を及ぼすようならば、米国経済の下振れ懸念が広がってFRBの利上げシナリオが修正を迫られることになるかもしれません。

日銀が金融緩和を縮小するまでは円安になりやすい

トランプ氏やFRBの政策に関係なく、米国の長期金利は上昇局面をたどるという説もあります。「コンドラチェフ循環」という50~60年周期の長期的な景気循環論に沿って金利動向を眺めると、米国の長期金利は1943年前後に大底をつけて上昇サイクルに転じた後、81~82年をピークとして今日まで続く低下サイクルが始まっています。現状2.5%程度で推移している長期金利が1.5%を下回るようなレベルまで大幅に低下しない限り、今回の低下サイクルは16年に大底を打ったという計算が成り立ち、今後は長期的な上昇サイクルに入ると考えられるようです。

このように金利面からみれば、将来的に日銀が金融緩和の出口戦略に乗り出すまでの間は、多少の曲折こそあれ「日米金利差の拡大→円安」というメカニズムが働きやすいことになります。ただし、短期的には金利以外にもうひとつ、円・ドル相場に大きな影響を及ぼすファクターがあります。国際的な政治・経済の混乱時に投資家が「リスクオフ」の姿勢を取ると、円が買われて円高・ドル安になる傾向です

経済成長力の低下が指摘され、巨額の財政赤字や労働人口減少といった構造問題も抱える日本の通貨・円が、そもそもなぜ国際的な有事に買われやすくなるのでしょうか。さまざまな理由が考えられるなかで、最も説得力がありそうなのが「キャリー取引」の影響です。金利の低い円を借りてきて金利の高い通貨を買うキャリー取引が、市場の混乱時には一気に手仕舞われるため、その過程で大量の円が買い戻されて円高になるわけです。

円は有事に「安全通貨」と見なされるともいわれますが、これは少しニュアンスが異なるような気がします。円は金(ゴールド)のように普遍的な価値を認められているわけではないので、将来的に日本の金利が上昇して円がキャリー取引の対象でなくなれば、恐らく有事の円買いは縮小に向かうのではないでしょうか

トランプ氏の強硬な通商・外交政策、中国の経済減速懸念、欧州における極右政権誕生の可能性、中東地域の混乱など、今年も投資家にとっての潜在的リスクは枚挙にいとまがありません。リスクが顕在化するたびに一時的な円高進行が繰り返されるはずですが、リスクの影響がよほど広範囲に及んだり、複数のリスクが連鎖するような事態にでも陥らない限り、いずれも短期間で円安・ドル高の中期トレンドに戻ると考えていいように思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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