増配要求の面では一定の成果
今年(2007年)に入ってから、おもな外資系投資ファンドが、株式を大量に保有する日本企業に対しておこなった株主提案を表にしてまとめてみます。
社名 | 提案内容 | 提案先 |
---|---|---|
スティール・パートナーズ | 増配を要求 | 三精輸送機、江崎グリコ、日清食品、因幡電機産業 |
買収防衛策に反対 | サッポロホールディングス、アデランス | |
TOB※の実施 | ブルドックソース | |
ザ・チルドレンズ・インベストメント | 増配を要求 | Jパワー |
ブランデス・インベストメント・パートナーズ | 増配を要求 | 小野薬品工業 |
ダルトン・インベストメンツ | MEBO※※を提案 | フジテック、日本精化 |
※TOB=株式公開買い付け
※※MEBO=経営陣と従業員による自社株買収
増配要求が目立つなか、ほとんどの日本企業は「拒否」の姿勢を示しています。ただし、大株主の提案にある程度、配慮するような対応を取った企業もあります。たとえば江崎グリコは、2007年3月期の1株あたり年間配当を15円としました。これは米国のスティール・パートナーズに要求された30円の半分ですが、当初予定の10円に、創業85周年の記念配当5円を上乗せした「実質増配」になっています。
小野薬品工業は、米国のブランデス・インベストメント・パートナーズから2007年3月期の1株あたり年間配当として740円を要求され、これを拒否。予定どおり100円の配当としました。一方で、ブランデスの提案が否決されることを条件に、2008年3月期から3年間にわたって年度ごとに出る余剰資金を全額、配当や自社株買いなどの株主還元にあてると表明しています。
外資系投資ファンドが積極的に株式取得を進めているのは、手持ちの現預金や有価証券、配当にまわす余剰金などの内部留保が多くて借金が少ない、財務体質の良好な企業が中心です。そのような企業に対して株主還元への意識改革を迫りながら、企業価値のさらなる向上を求めていく投資ファンドの「株主としての狙い」は、一定程度の成果をあげていると言えるでしょう。
最初から転売目的の株式取得もある?
見逃せないのは、外資系投資ファンドの株式大量保有には別の狙いもありそうだ、ということです。たとえばスティール・パートナーズは昨年秋、明星食品に対して敵対的TOBを実施しました。途中でホワイトナイト(友好的買収者)として登場した日清食品に株式を売却し、30億円程度の売却益を得たと言われています。後にその売却益を用いて日清食品の株式を買い増し、増配要求もおこなっています。
こうした経緯があったため、今年2月にスティールがサッポロホールディングスに買収提案をおこなった際には、経済産業省が異例の見解を発表しました。「グリーンメーラー(高値で買い戻させることを狙った買収者)と疑われても仕方がない」と、スティールの行動に懐疑的な考えを示したのです。
5月18日にはスティールが、ブルドックソースに対して全株取得をめざすTOBを実施しました。これを受けたブルドックソースでは、新株予約権を使った買収防衛策を画策。一方のスティールは、ブルドックソースの防衛策差し止めを求めた仮処分申請をおこないました。東京高裁の即時抗告審では、申し立てを却下した東京地裁決定を支持。スティールを「濫用(らんよう)的買収者」と初めて認定しました。この点は今後、日本企業の買収に大きな影響を及ぼしそうです。
外資系投資ファンドの株式大量保有には、純粋に企業価値向上を促す「株主としての狙い」とともに、意図的に高値転売をめざす「買収者としての狙い」も多分に含まれていると考えられます。彼らが株式を大量保有する日本企業各社に対して、今後どのような提案をおこなっていくのか、しばらくは慎重に見定める必要がありそうです。