1. いま聞きたいQ&A
Q

新聞の株式欄には、よく「同新」と記載されていますが、どんな意味ですか?

確かに最近、新聞の株価欄には「同新」の文字をよく見かけますね。これを書いている10月19日(火)の日本経済新聞の株価欄には、ヤフー、ドワンゴ、ナムコのすぐ下に「同新」が記載されています。マザーズやヘラクレスの欄に目を転じると、もっと頻繁に見つけることができます。

ヤフー、ドワンゴ、ナムコ、に共通している点は、9月末に大幅な株式分割を行った銘柄だということです。ヤフーとナムコは1株を2株に、ドワンゴは1株を5株に、それぞれ株式を分割しています。

「同新」とは、株式分割によって生じた新しい株式(新株)を売買する取引です。新株はもともとの株式(旧株)とは違って、分割直後はまだ新しい株券が株主の手元に届いていません。世の中に存在しないものを売り買いするために、取引所では「発行日決済取引(はっこうびけっさいとりひき)」という特殊な取引形態を用いています。それが新株を売買する取引=「同新」の表示として示されているのです。

通常、株式の決済は、約定日から数えて4日目と定められています。たとえば、月曜日に株を買ったら、買い付けに必要な代金の支払いは木曜日までとされています。これは「普通取引」と呼ばれる決済の形態で、株式投資を行う上での基本ルールになっています。

「発行日決済取引」とは、「普通取引」の例外にあたり、上場企業が株式分割、株主割当増資、公募増資を行って新しい株券を発行した場合、これらの新株券がまだ発行されていない段階で売買を行う方法です。ヤフーやナムコが1株を2株に分割した場合、新しい1株分は2カ月くらいしないと株主の手元に届きません。分割後の旧株はいつでも売却できますが、新株は株券がないために売却できません。その場合、不測の価格変動リスクを避けるために、まだ発行されていない新株券に売却の機会を提供するのが「同新」、すなわち発行日決済取引です。

「発行日決済取引」の最大の特徴は、将来、新株券が発行される日から一定期間を経過した日に決済が行われる点にあります。「約定から4日目決済」の大原則から離れ、「新株券が発行された日」に決済の基準が置かれるために「発行日決済取引」と呼ばれます。

以下はヤフーの株式分割を例にとって説明します。

ヤフーは今年9月末に1株を2株に分割しました。株式分割の権利付最終日は9月24日(金)で、権利落ち日は9月27日(月)でした。新株券が株主の手元に届くのは11月22日です。そしてこの場合、ヤフーの新株券の発行日決済取引は9月27日~11月22日まで行われます。この発行日決済取引の決済は、売買最終日である11月22日から起算して4日目の日に一括して行われます(つまり11月22日+3日で11月26日)。決済日の翌日(すなわち11月27日)に新株券と旧株券が併合され、分割によって生じた「新株」とそれ以前の「旧株」との区別がなくなります。

ここで決済が「一括して行われる」と規定されている意味は、たとえば10月1日にヤフーの新株券を発行日決済取引で売却した人も、あるいは10月29日に売却した人も、すべて一律に11月22日から4日目の日に決済がなされるということです。新株券が実際に発行されるまで「ヤフー新株」の取引が行われ、その決済は売買の約定日に関わらず「発行日決済取引の取引期間の最終日から起算して4日目の日」にまとめて行われる、ということです。

投資家が発行日決済取引を利用する場合、証券会社との権利義務関係を明確にしておく必要から、取引を行う前に証券会社に対して「発行日決済取引の委託についての約諾書」を差し入れることになっています。この約諾書に所定の事項を記載し、署名押印して差し入れる必要がありますが、4000円の印紙税が課される場合もあります。(なお証券会社によっては、発行日決済取引を取り扱っていないところもあります。)

発行日決済取引を利用してヤフーの新株券の売買を行う人は、「ヤフー新株」の約定から決済日が到来するまでの期間、証券会社に対して委託保証金を差し入れなければなりません。信用取引のケースと似ていますが、発行日決済取引のもうひとつの特徴です。委託保証金は売買が成立した日から起算して3日目の正午までに、売買を委託した証券会社に預託することになっています。

この委託保証金の意味ですが、発行日決済取引では売買が成立した日がいつであるかにかかわらず、最長で2カ月近くも決済が先に延ばされています。そのため、将来の決済が確実に行なわれることを保証するためのものと位置づけられています。

発行日決済取引の決済日が到来したら、ヤフーの新株券を売却している場合はその新株券を、買い付けしている場合はその買い付け代金を、原則として決済日(11月26日)の午前9時までに証券会社に差し入れなければなりません。ここで新株券の代わりに旧株券を差し入れることはできません。

注意すべきは、大幅な株式分割を行ったすべての銘柄が、発行日決済取引の対象になるとは限らないことです。発行日決済取引が行われるのは(言い換えれば「同新」の相場が立つのは)、その上場企業が取引所に対して「新株を上場させる」ことを申請して初めて可能になります。上場企業からの申請がない場合や、一定の基準を満たさない場合は発行日決済取引は行われません。株式分割が行われても、必ずしも発行日決済取引が行われるとは限らないわけです。

むずかしくなりましたが簡単にまとめると、新聞の株価欄で見かける「同新」とは、株式分割などで生じた新株が「発行日決済取引」によって取引されている相場表をあらわしています。なお「発行日決済取引」に関しては、東証のホームページで詳しく説明されています。

東京証券取引所

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